■映画へのオマージュが詰まった「暗闇から石」

 映画が好きで『パーマンのわくわく指定席』といった映画エッセイも遺している藤子Aさん。 最後に紹介する、「暗闇から石」(『ヤングコミック』1973年4月11日号)は、スティーヴン・スピルバーグ監督の1971年の映画『激突!』へのオマージュが詰まった短編だ。

 映画館で『激突!』を鑑賞中のサラリーマン・高倉輝夫が、隣の席の女性を痴漢から助けたところから物語は始まる。『激突!』は荒野のハイウェイで低速走行をするトレーラーを追い抜いたことで、そのドライバーから執拗な煽り運転をされるという作品。ドライバーの顔がいっさい映されないところが不気味な映画で、この漫画の主人公もそれと同じように謎の人物から逆恨みを受けてしまうのだ。

 高倉は映画の帰り道で、物陰から顔面に石を投げられ、さらに翌日には会社に無言電話の攻撃を受ける。高倉は、あのときの痴漢の仕業に違いないと確信するが、相手も分からぬまま駅でホームから突き落とされそうになるなど嫌がらせは続く。妻いわく、アパートの自宅にも不気味な電話がかかってきており、猫の死骸を軒先に吊るされ、家にも投石されるようになる。

 高倉はある日の帰り道、車に付け回される。必死になって逃げていたところ、車はダンプカーと衝突し運転手は死亡してしまう。ストーカー野郎が亡くなって一安心……と思った矢先、帰宅すると大家から「あ!高倉さん電話ですよ電話!」と呼び止められ、受話器を取ると再び無言電話だったというラストだ。

 正義を行使したにもかかわらず、ストーカーの悪夢に悩まされる。悪夢が終わったかと思ったらまだ続くという、不条理極まりないホラー作品だ。

 藤子Aさんのブラックユーモア作品は、劇画調・実写タッチで描かれているため、大人が楽しめる作風になっている。また『笑ゥせぇるすまん』によくある「欲を出してダメになっていく」というストーリーも多くある。反面教師として読んでおきたい作品ばかりだ。

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