不気味で不条理…藤子不二雄Aさんが遺した 「ブラックユーモア」の秀逸短編3選の画像
藤子不二雄AメモリアルBOX【ベスト&未収録コレクション】

 2023年12月27日、漫画家・藤子不二雄Aさんの代表作やこれまで未収録だった作品を収めた『藤子不二雄A メモリアルBOX【ベスト&未収録コレクション】』が発売となった。『忍者ハットリくん』や『怪物くん』といった人気作の名エピソードの他、猿のその後を描く「プロゴルファー猿 FOREVER」や、大人になった魔太郎が登場する「魔太郎が翔ぶ」といった貴重な作品も読むことができる。

 テレビアニメ化された作品が多く、「子ども向け」というイメージがある藤子Aさんだが、『笑ゥせぇるすまん』の元となった「黒ィせぇるすまん」など、人間の「陰」「悪」を描いた作品を数多く残しており、それらダークな短編のいくつかは『藤子不二雄Aブラックユーモア短編』などで読むことができる。

 そこで今回は、藤子Aさんが遺した「ブラックユーモア」作品をいくつか紹介したい。

■やってはいけないことこそ、やりたくなる「禁じられた遊び」

 まずは、1971年に『COM』7月号で発表された「禁じられた遊び」という短編。

 これは、「マコ(初出時では飯村浩子なる名前)」という動物好きな少女が、飼っていた動物の墓を作っていくうちに墓作りに執着してしまうという不気味な物語だ。

 マコは庭付きの家で両親と暮らしており、金魚やリスをかわいがっていた。しかし、ペットが次々と亡くなり、そのたびに墓を作ることに。ところが墓が増えていくに連れ、悲しみよりも墓作りにハマっていき、次第に彼女の様子がおかしくなっていく。

 そして、「とりのおはかつくりたいわ……」とつぶやくと、隣家の女の子が飼っていた鳥を殺害し、その墓を建てる。さすがに気味が悪くなった両親は墓作り禁止を通告。

 墓作りを禁止され号泣するマコ。そこに、鳥の飼い主がやって来て、自分が飼っていた鳥の墓を見つけ、マコを咎める。そして最後のコマには、「ひさえさんのおはか」という文字が書かれているのだった……。

 純真無垢な子どもの「残酷さ」と「過激さ」が刻々と描かれている、藤子不二雄A作品ならではのブラックユーモアが詰まった短編だ。

■蛙化現象のはしり「カタリ・カタリ」

 続いて紹介するのは、『ビッグコミック』1972年1月10日号に発表された「カタリ・カタリ」だ。映画『ローマの休日』や『終着駅』などに触発され、ローマに魅了された青年が主人公だ。

 青年はローマへの憧れを胸に、旅に出発。飛行機内で別の日本人から詐欺やぼったくりへの注意を聞かされるが、青年は現地に到着するなりタクシー運転手からぼったくられ、トレヴィの泉での羞恥を受けるなど憂き目に遭う。

 そこで日本文学愛好者のイタリア人カップルに出会い、警戒心を解いた。彼らと食事をともにし、親しみを感じた矢先、彼らの本性が露見する。彼らは青年を騙してぼったくっていたのだ。ローマに対する憧れは見事に崩れてしまい、失望と怒りから最後は「ローマに二度と来れないようにしてくれ!」とトレヴィの泉にコインを投げ込み、苦々しい顔で去っていくというオチだ。

 2023年には、「蛙化現象」という言葉が流行したことは記憶に新しい。この言葉は、好きな人や交際相手の嫌な面を見て幻滅することを指す言葉として注目され、新語・流行語大賞のトップテン入りまで果たした。

 藤子Aさんは、この他にニューヨークやラスベガスへの渡航を綴った短編も遺しているが、憧れているものは近すぎず遠すぎずの距離で見守っていたほうがいいという藤子Aさんからのメッセージだろうか。

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