■『バトルスタディーズ』なきぼくろ氏…元PL野球部レギュラーが高校野球を描く

 漫画家とスポーツマンは対極の存在と思われがちだが、何事にも例外は存在する。
『週刊モーニング』(講談社)で連載中の高校野球漫画『バトルスタディーズ』を手掛けるなきぼくろ氏は、高校野球の名門として一時代を築いたPL学園野球部出身の漫画家だ。

 しかも2003年夏の甲子園ではライトのレギュラーとして出場した、正真正銘の甲子園球児なのである。ここまで個性的な経歴を持つ漫画家はそうそういないだろう。

『バトルスタディーズ』は“PL”ならぬ“DL”学園野球部に入部した天才捕手・狩野笑太郎の3年間を通して、野球名門校の実態を描いている。甲子園常連校はどんな生活を送っているのか、そのなかで球児たちはどう成長するのか……その描写の数々は高校野球の実情を知らないはずの読者にすら「リアルすぎる!」と思わせるほど生々しい。

 本作で個人的に好きなのが「練習中に水を飲むな」というルールを前に、なんとかバレないよう水を飲もうとするエピソードだ。必死に水を求める狩野たちに笑えるような笑えないような、複雑な気持ちになれる。

 もちろん、本作の元ネタはなきぼくろ氏の高校球児としての経験そのものだ。漫画はオリジナリティが大事というが、その点でなきぼくろ氏は誰にもマネできない武器を持っているといえるだろう。

 

 読者には思いもよらない前歴を持つ漫画家はまだまだいる。『刃牙』シリーズ(秋田書店)の板垣恵介氏はかつて陸上自衛隊で青春を過ごしていたというし、『ハコヅメ 〜交番女子の逆襲〜』(講談社)の泰三子氏は元女性警官だ。

 面白い漫画に面白い経験が絶対に必要……とは言い切れないが、貴重な武器になるのは間違いないだろう。

 あの漫画の作者はかつて何をやっていたのか? 調べてみるのも面白いかもしれない。

  1. 1
  2. 2
  3. 3