『鋼の錬金術師』荒川弘や『Dr.STONE』のBoichiも…漫画作りにも活かされている? “珍しい経歴”を持つ人気漫画家の画像
デジタル版ガンガンコミックス『鋼の錬金術師』第1巻(スクウェア・エニックス)

 漫画の面白さと作者の人生経験は無関係ではないだろう。その人が歩んできた人生そのものがキャラや世界観に厚みを持たせ、説得力あるストーリーの礎になる。リアルな体験を血肉にするため、積極的な取材を重ねる漫画家も少なくないと聞く。

 なかには、ほかの人ができないような貴重な経験を作品づくりに活かす漫画家もいる。それは前職だったり学生時代の思い出だったりと、人によってさまざまだ。今回は珍しい経歴を経て大成した漫画家を紹介しよう。

■『鋼の錬金術師』『百姓貴族』荒川弘氏…錬金術の思想は農業に通ずる?

 まずは『月刊少年ガンガン』(スクウェア・エニックス)発のメガヒットタイトル『鋼の錬金術師』の作者、荒川弘氏だ。世界に誇るダークファンタジー漫画を手掛けた彼女の出身は、北海道のとある専業農家。7年間も実家の酪農業を手伝っていた、バリバリの元・農業従事者である。

 畑の作物や乳牛などの畜産物を扱っていた荒川氏は、農業の酸いも甘いも知るプロフェッショナルだ。農業にまつわるエッセイ漫画『百姓貴族』(新書館)や、農業高等学校を舞台にした学園ストーリー『銀の匙 Silver Spoon』(小学館)など、自身の経験を活かした漫画も描いている。

 実際に畑や家畜と格闘してきた荒川氏だからこそのエピソードも多く、どちらも読み応えのある作品だ。

 代表作『鋼の錬金術師』にも荒川氏の農業経験が読み取れる設定がある。作中における錬金術の基本である「一は全、全は一」だ。

 世界には大きな流れがあり、人間はその中の小さな一つにすぎない。だけど、小さな一つが集まるからこそ“全”がある……そんな考え方を作中で「一は全、全は一」と表現している。

 人間ではままならぬ自然と常に向き合ってきた荒川氏だからこその哲学といえるのではないだろうか。

■『Dr.STONE』『ORIGIN』Boichi氏…大学で物理学を専攻

 次は『週刊少年ジャンプ』(集英社)で2017年から連載された人気作『Dr.STONE』(原作:稲垣理一郎氏)の作画担当、Boichi氏を見てみよう。Boichi氏は豊富な科学知識が見どころの『Dr.STONE』や、西暦2048年を生きるアンドロイドが主人公の『ORIGIN』(講談社)など、SF漫画を手掛けることが多い。

 それもそのはず、Boichi氏は大学で物理学を専攻した経歴の持ち主。漫画家になるか物理学者になるかでしばらく悩んでいた時期があった、と語るほどの科学好きである。

「漫画に生かしたい」という理由から大学で物理を学んだそうだが、その知識はとても深く、『Dr.STONE』でコンビを組む原作者・稲垣氏が「物理詳しすぎてビビる」「原作の自分よりはるかに知識がある」と証言するほどなのだ。

 芸術的な作画に定評のあるBoichi氏だが、それに加えて科学にも明るいとはすさまじい。

 Boichi氏は『Dr.STONE』のスピンオフ作品『Dr.STONE reboot:百夜』で作画だけでなく作劇も担当し、宇宙に1機だけ取り残されたAIロボットの物語を描いている。

 本作では「本当にそんなことがありえるの?」と思わされるほど壮大な科学の工作が登場するのだが、それもBoichi氏だからこそ生まれた発想なのだろう。

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