■歌人・紫式部が幼なじみへの思いを和歌で詠う!
「めぐり逢ひて 見しやそれとも わかぬ間に 雲隠れにし 夜半の月かな」
これは百人一首に収録される紫式部の詠んだ歌だが、彼女が誰に対してどんな思いで詠んだのかが分かるのが、2010年にメディアファクトリーから発行された杉田圭氏の『超訳百人一首 うた恋い。』だ。同作は百人一首の“恋愛歌”を題材としたコミックエッセイで、紫式部の他に百人一首の撰者・藤原定家、藤原義孝や在原業平たちの歌がエピソード漫画とともに紹介されている。
前述した紫式部の歌は、幼なじみで親友の藤子とのあわただしい再会を、雲間に隠れてしまう月のようだったと惜しむ歌だ。紫式部は周囲のプレッシャーにより『源氏物語』の続きが書けずスランプに陥っていたが、幼い頃に藤子と交わした約束を胸に、再び文筆業と向き合うようになる。女性同士の大切な友情を詠った歌だが、香子時代の紫式部と藤子の関係は互いに憧れであり、それは恋愛よりも深い絆であるようにも感じた。
今回紹介した『人生はあはれなり…紫式部日記』や『超訳百人一首 うた恋い。』などは、NHK大河の影響により2023年に新編や新版として再発行され注目を集めている。また、紫式部に関する学習漫画も増え、多くの漫画家たちが美麗な絵柄で紫式部を描いているため、子どもだけではなく大人も楽しく読めそうだ。
また、こうした作品が並ぶ中で、1979年より連載された大和和紀氏の代表作『あさきゆめみし』を、紫式部が綴った『源氏物語』を漫画で表現した名作として再び手にとっている人も多いのではないか。当時の衣装や建造物、風景が描かれているため物語に没頭しやすく、何より文章だけでは分かりづらかった登場人物たちをイラスト化したことで脳内でイメージ化しやすくなった。
千年も前に描かれた作品が今なお愛され続ける理由は、紫式部が作り出した登場人物たちに今を生きる私たちが魅力を感じ続けるためかもしれない。