2024年1月7日から放送スタートする吉高由里子さん主演のNHK大河ドラマ『光る君へ』は、世界最古の長編小説とされる『源氏物語』の作者である歌人・紫式部を主人公にした作品だ。
紫式部は今からおよそ千年前の平安中期に生きた人物で、身分の高い女性に仕える女房(女官)だった。名前の由来も父や兄の役職「式部省」と、自身が執筆した『源氏物語』のヒロイン「紫の上」にちなんだ呼び名であるとされている。近年では紫式部関連の書籍の刊行が増えているが、今回は、楽しく読みながら学べる「紫式部」を描いた漫画を探してみた。
■陰キャで引きこもりなシングルマザー香子が宮仕えした理由は?
紫式部の立場や創作理由などを現在に置き換え、オタク文化を享受する私たちにも共感できるのが、2021年より『月刊コミックZERO-SUM』で連載されているD・キッサン氏の漫画『神作家・紫式部のありえない日々』だ。同作は平安時代を舞台にしているが、登場人物の思考は今の私たちに近く、難しい平安古文はネットスラングまで交えた現代語に変換されているため意味や事情が直観でわかる。
主人公・紫式部こと香子(こうし)は夫を失いシングルマザーとなったものの、その悲しみを「同人活動=物語(の創作活動)」に打ち込むことでまぎらわせ、いつしか「神作家」として名を馳せることとなる。
その噂を聞きつけた藤原道長から娘・彰子の家庭教師(宮仕え)するよう命じられるも、香子は引きこもって同人誌だけを書いていたいと、幼い娘にだだをこねる陰キャぶり。そんな彼女が渋々でも家庭教師を引き受けたのは、宮中公認で同人(=創作)活動ができることで、当時は貴重だった紙をたくさん使えると説得されたからである。その他、弟の出世や香子の婚期が遅れた理由……などなども同時に描かれる作品で、コメディながら濃縮された情報量に驚かされる。
さらに、平安貴族にとって紫式部と『源氏物語』がどのような存在であるのかも分かりやすく描かれており、授業で習った古典文学を違ったアプローチで楽しめる漫画だ。
■絶望だらけの平安ライフを超ネガティブに綴った日記に現代人も共感!
紫式部がつづった日記とされる『紫式部日記』をコミカルに仕上げたのが、2015年にメディアファクトリー/KADOKAWAより発行された小迎裕美子氏の『人生はあはれなり…紫式部日記』だ。
才女として知られる紫式部だが、宮中という自身の“職場”に馴染めず「将来が不安」「人目を気にしすぎてつらい」、さらには「出る杭は打たれるので、できるだけ目立ちたくない」と考え“バカのふり”をするなど、彼女なりの悩みや愚痴を吐き出す様子が描かれている。さらに、不器用なのにプライドは高くネガティブ思考な彼女は、今でいう“こじらせ女子”のようなキャラで、同作で、『源氏物語』の登場人物がなぜあんなにも“こじらせて”いるのか納得する読者も多いと思う。
一方、日記では日頃のうっぷんを吐き出すように清少納言をはじめさまざまな人をこき下ろし、彰子が出産した際には父・藤原道長を浮かれたように綴る様子も描かれている。高貴な身分である彼らの人間臭さに共感できると同時に、私たちの知らない紫式部に出逢える作品でもある。