集英社が発行する少女漫画誌『マーガレット』および『別冊マーガレット』が、今年2023年に創刊60周年を迎えた。
『マーガレット』は1970年代(当時は『週刊マーガレット』)に連載された『ベルサイユのばら』、『エースをねらえ!』が社会的現象を起こすほど大ヒットした雑誌だ。それに続くように講談社『なかよし』では『キャンディ・キャンディ』が、白泉社『花とゆめ』では『スケバン刑事』や『ガラスの仮面』が大ヒットするなど、まさに少女漫画全盛期でもあった。
とはいえ、出版不況と呼ばれる昨今ほどではないにしろ、昭和や平成も雑誌の廃刊にともなう連載漫画の移動や移籍、もしくは未完のまま「打ち切り」となるケースも少なくはなかった。大好きだった漫画の続きが読めず、愛着ある雑誌が無くなるのはファンや読者としては悲しいことだ。
そこでこちらでは、筆者が個人的に選ぶ「惜しまれながらも廃刊した少女漫画雑誌」を紹介したいと思う。
■ファンシー小物の老舗が送り出した可愛く豪華な変形サイズ…『リリカ』
最初に紹介する『リリカ(LYRICA)』は、ハローキティなどで知られる「サンリオ」から1976年に創刊された月刊雑誌。
同誌は従来誌とはさまざまな面で違っており、例えば「左トジ」を採用したことで漫画のセリフや文章が「横書き」、他誌より縦の比率が短い「変形サイズ」、そして全ページ「フルカラー」の豪華仕様。さらに執筆陣も豪華で、手塚治虫さんが『ユニコ』を連載し、読切やコラムなどに山岸凉子さん、萩尾望都さん、まつざきあけみさん、おおやちきさんなどが名を連ねていた。
とはいえページ数はかなり少な目で、何より「左トジ」と「横書き」は「右トジで縦書き」を読んでいた読者には受け入れづらい。また、創刊当時『リリカ』は330円だったが、ほぼ同価格の講談社『なかよし』は魅力的な付録と読み応えたっぷりな分厚いページ数を誇っており、少ないお小遣いの子どもにとって悩ましい問題であったのは確かだ。
さらに漫画家にとっても全ページ「フルカラー」は大変な問題で、号を重ねるごとに2〜3色刷りページが増えたことで上質な紙から質が落ち、そのため当初の美しい『リリカ』の誌面は損なわれてしまう。後に通常誌と同じくらいのページ数になるなど試行錯誤を繰り返す中、1979年3月号(第29号)で『リリカ』は廃刊となった。
筆者は同誌で連載されていた石ノ森章太郎さんの『魔法世界のジュン』を大人になってから読んだが、作品世界の美しさと相まって主人公の少年・ジュンが現実世界で受ける過酷な状況に胸が苦しくなった思い出がある。愛らしい『ユニコ』にもかなりキツ目な孤独が散りばめられるなど、可愛い少女漫画雑誌ながら挑戦的な漫画も多く、それゆえ今なおファンから惜しまれ続けるのもわかる気がした。
■さまざまな業界のアーティストも参加した個性的な雑誌…『きみとぼく』
グッと時代は進んで、1990年代にはさまざまな雑誌が生まれたが、1994年にソニー・マガジンズ(現:ソニー・ミュージックソリューションズ)から創刊された『きみとぼく』も、惜しまれながら廃刊となった少女向け雑誌のひとつだろう。
同誌では『ちびまるこちゃん』のさくらももこさんが『コジコジ』を連載しており、『×-ペケ-』の新井理恵さん、『のだめカンタービレ』の二ノ宮知子さんなどが新作を連載していた。なかでもTM NETWORK・木根尚登さんの原作を高河ゆんさんが作画した『CAROL-K』をはじめ、声優の子安武人さん、小説家の我孫子武丸さんが漫画原作として参加していたことも当時話題となった。
また、ソニー「ウォークマン」のCMで起用したスイスのクレイアニメ『ピングー』を漫画やイメージキャラクターに、ミュージシャンaccessの浅倉大介さんを総力特集するなど、誌面のあちらこちらに“ソニー”を感じさせる企画が多数。他にも新人漫画家の発掘や育成にも注力し、シュールな笑いとオタク要素やスタイリッシュが混在する個性的な雑誌だった。
そんな同誌だが2000年4月に発行された6月号で休刊、季刊誌『コミックきみとぼく』となりvol.4まで発行されるも、後に誌名や発行元も変わり事実上の廃刊。人気作品も多い雑誌であったため、ショックを受けたファンも多かったのではないだろうか。