■“名人”の過去はフィクションばかり…とも限らない!? 『ファミコンランナー高橋名人物語』
ファミコン時代の有名人といえば、前述した“高橋名人”を思い浮かべる方も多いのではないだろうか。
1986年に連載された河合一慶さんの『ファミコンランナー高橋名人物語』は、ずばりその高橋名人の半生を題材にしたファミコン漫画である。さまざまな逸話を残している名人だが、なかでも卓越した“連打力”が有名で、なかでも「16連射」は彼の代名詞にもなっている。
本作はそんな名人の少年時代にまで時をさかのぼり、現代にいたるまでの歩みを漫画作品らしく、さまざまな誇張も交えて描いた作品だ。
実際に高橋名人に聞き取りをおこなったことから事実に即した部分もあるものの、作中では名人が過去にタイムスリップしたり、幽霊を北海道から追い出したりと、ファンタジーなエピソードも多い。
とくに“身体能力”についてはかなり強烈なエピソードが多く、鍛えた腕力が暴走し手当たり次第に物を握りつぶしたり、砲丸投で校舎を全壊させるなど、“これぞコロコロ”といったインパクト大な描写も見受けられる。物語後半では悪の組織も登場し、半生を描いた漫画というよりも“バトル漫画”のテイストが強くなっていった。
どこか漫画的な表現が多い本作だが、それでいて実際の高橋名人の過去をそのまま流用した話も多く、完全にフィクションと片付けきれないのは面白い点だろう。とくに“握力”については幼少期から常人離れしていたらしく、小学校時代にはなんと約85キロの握力でりんごを潰せたというのだから驚きだ。
名人自身も本作を読んで、その誇張ぶりに驚いたらしいが、一方でわずかなネタで話を広げた作者の力量に感心もしていたそうだ。誰しもが知る“名人”の姿を、ときにコミカルに、ときにシリアスに描いた味わい深い一作となっている。
当時、『コロコロ』で連載されたファミコン漫画たちは、どれもゲームの内容のみならず、ファミコンを用いてのバトルやそれにまつわる事件、有名人の半生を描いたりと、一風変わったテイストのものが多かった。
“ファミコン”を軸に展開される作者ごとの世界観に、当時の少年・少女たちはおおいに盛り上がったことだろう。