■恋人に会うために神を傷つけた海女『海女と大あわび』
ときには、生き物を“神”として崇め、大切にする風習がある日本。最後に紹介する『海女と大あわび』でも、海の守り神として大きなあわびが登場する。
その漁村ではその大きなあわびを傷つけることはおろか、殻に触ることさえ許されておらず、もし禁忌を犯せば嵐がやってくると言い伝えられていた。
しかし、登場する若い海女にとって嵐の到来は悪いことだけではなかった。恋人である漁師の男性と会えるからだ。嵐の晩、海女のもとを訪ね、「またシケが来たらな」と言い、翌朝去っていく男……。
海女は男に会いたいがために知恵を絞り、あわびを傷つければ嵐が来ると考えた。そして海女はあわびに小さな貝殻をぶつけてみる。すると、言い伝えのとおりに嵐がやってきて、そしてまた、男も海女のもとを訪れた。
これに味をしめた海女は、何度もあわびを手にかける。そのたび愛しい男と逢瀬を重ねていたのだが、ある日彼女はいつもの貝殻を取ってくるのを忘れ、手もちの小刀を使ってあわびを傷つけた。あわびがいつもとは違う反応を見せたそのとき、大シケになっていく海。
海女はまた男性に会えると喜んだが、実は男性は漁に出たまま戻っていなかった。彼の身を案じた海女は、周囲の制止もきかず男性を助けに海に出てしまう……。
愛しい恋人に会うため、何度も神を傷つけてしまった海女。彼女の行動は決してほめられたものではなく、結果的に2人を待ち受ける結末は悲劇だった。しかし、一度好きになってしまうと、周りが見えなくなってしまうのも恋愛。“恋は盲目”ゆえに、海女は越えてはいけない一線を越えてしまったのだろう。
恋に落ちたことで歯車が狂ってしまった昔ばなしを紹介してきた。彼らが行き着く先は、どれも悲しい結末で、誰1人として幸せを手にすることはない。
理性を失い、正常な判断ができなくなってしまうほど恋に没頭してしまった登場人物たち。あらためて、子どもが見るにはヘビーすぎるのでは?と心配になった筆者だった。