優しい語り口と、興味深い物語の数々に子どもたちが夢中になった『まんが日本昔ばなし』。日本各地に伝わる昔ばなしをメインストーリーにしているアニメだが、ときには目を疑うような物語が紹介されることも……。
そこで今回は、子どもたちにはヘビーすぎた(!?)“恋愛”がからんだ恐ろしい話をご紹介していこう。
■ペットに嫉妬した男が凶行に及んだ『はらつづみの怪』
博多の町を舞台にした『はらつづみの怪』は、とある男の悲しい運命を語った昔ばなしだ。博多にある荒れ寺では、夜になると毎晩不気味な“はらつづみ”の音が聞こえてくるそうで、人々は気味悪がって音の正体をつきとめようとするも、真相はわからないままだった。
ある日、1人の年老いたお坊さんが荒れ寺に住むようになる。子どもに読み書きを教えるなど親切なお坊さんのことは、町で評判になっていた。
そんなある夜のこと、お坊さんは人々を寺へ集めた。そして、はらつづみの音が響き渡るなか、50年ほど前に博多に住んでいたという男・平吉についての昔ばなしをはじめる。
平吉は身寄りがない男で、隣に住んでいた美しい娘をたいそう気に入り、嫁にほしいと考えていた。しかし娘は平吉の誘いに首を縦にふることはない。そんな押し問答が続くなか、平吉は娘が可愛がり飼っていたペットの狸に嫉妬し、恨むようになってしまう。
やがて、平吉の執念は最悪の形で爆発した。目が見えないハンデを負いながらも、愛しいペットの狸と静かに暮らしていた娘……彼女は平吉の手にかかり、凄惨な最後をとげてしまうのだ。
この物語では、最後に平吉のそのあとの姿が明かされ、“はらつづみ”の音の謎も解き明かされる。悲しい結末ではあるものの、しんみりとした気持ちにさせる昔ばなしだった。
■親友同士が1人の女性を取り合った結果…『佐吉舟』
『佐吉舟』は、八丈島に住む太兵衛と佐吉という2人の漁師の物語だ。漁師としての腕もさることながら、佐吉は島一番の男前で、太兵衛は島一番の力持ち。そして2人は幼いころから仲の良い友人だった。
しかし転機が訪れる。佐吉と太兵衛は、船主の娘・ヨネのことを好きになってしまうのだ。魅力的な2人だったので、ヨネはどちらも好きで選べない。そんな3人の様子を見て、父親である船主は“稼ぎの多いほうに嫁にやる”と提案した。
これを機に、佐吉と太兵衛の関係は悪化。競い合って漁をおこなうようになり、いがみあうようになってしまう。
ある日のこと、いつものように漁で競っていた2人だが、その日はどうにも佐吉にばかり魚が寄ってくる。みるみるうちに大量の魚を釣り上げた佐吉だったが、魚の重みと大波により、舟が沈んでしまうのだ。
佐吉は命からがら太兵衛に助けを求めるものの、太兵衛は“助けるかわりにヨネを自分に譲る”ことを条件に出す。佐吉は当然そんな条件をのむことはできず、太兵衛の舟にしがみついた。するとそこで太兵衛は、恐ろしい行動に出てしまう……。
たった1人で漁から帰った太兵衛。あらためて自分のしたことにおののき、家に閉じこもって過ごすようになる。それからしばらくたったころ、漁に出た太兵衛は佐吉の亡霊が乗る舟と出くわすのだ。
この物語の結末は「因果応報」と言ってしまえばそれまでなのだが、仲のよかった親友同士が、同じ女性に恋をしたことで狂っていく様子がなんとも怖すぎる昔ばなしだった。太兵衛を待ち受ける結末は、ハッピーエンドではない。“誰も幸せにならない”という、子どもが見るにはヘビーすぎる内容だろう。