漫画では主要キャストが過去の事柄を忘れていたことで、物語が大きく動くときがある。「あのとき俺を救ってくれたのは……!?」といった展開により悪役が味方になったり、はたまたその逆の展開があったりもするのだ。
『北斗の拳』(原作:武論尊氏、作画:原哲夫氏)にも、ケンシロウなどの主要キャストがうっかり忘れていたことで、物語が大きく展開するシーンがある。ただし『北斗の拳』の場合は、“それ忘れる!?”と、思わず突っ込みたくなるような忘却シーンも多い。
ここではケンシロウをはじめ、登場キャラたちが重要なことを忘れてしまっていたシーンをいくつか紹介する。
■トキに似てる⁉ ケンシロウがアミバを実の兄だと勘違いしたシーン
まずは、“お兄さんの顔を忘れちゃった?”というシーンを紹介したい。
ジャギとの戦いにより、兄のトキが生きていると知ったケンシロウ。村で聞いた情報によりトキの居場所を見つけるが、そこにいたのはトキになりすましたアミバだった。
アミバはかつてレイとともに南斗聖拳を学び、秘孔の研究に没頭し人体実験を繰り返している男だ。トキから受けた屈辱が忘れられず、以来トキになりすまして残虐非道な行為を繰り返していた。しかし、そんなアミバをトキだと疑わず「もうひとりの兄までも殺さなくてはならぬのか~!!」と怒りと悲しみに溢れるケンシロウ……。
結局ケンシロウがトキではないと分かったのは、「その男は おまえの兄トキではない!!」とレイが教えてくれたからだった。アミバはトキになりすますためどうやら顔を整形し、ケンシロウから疑われないために背中にも傷をつけていたようだ。
しかし長年一緒に暮らしていた兄に、こうも簡単になりすまされてしまうのか? ケンシロウはせめて声で見抜けなかったのか……とも思う。ただしその後のケンシロウには、本物のトキと出会うためのドラマチックな展開が待っているのにも注目だ。
■「しっ…しまったあ!!」裏切りの星を忘れていたレイ
『北斗の拳』のなかでも人気キャラクターであるレイの、うっかり忘れていたシーンがある。
ラオウの戦いにより、残り3日の命となってしまったレイ。自分の死に方をどうするか模索するうち、愛するマミヤを苦しめた南斗六聖拳のユダと戦うことを決意する。満身創痍のなかユダの敵地に乗り込むが、そこにユダの姿はなかった。
すると「フフフ…知っておりますぞ! あなたの命はあと一日とか!!」と、勝ち誇ったように言うユダの部下。それを聞いたレイは「しっ…しまったあ!!」と叫ぶ。レイはユダが“裏切りの星”であることを忘れ、姑息な手段を使う相手だと忘れていたのだ。
レイもユダも南斗聖拳の頂点に位置する六流派の人物であり、それぞれの宿星は忘れないはず。普段であればレイもユダの手口を判断し、いきなり敵地に乗り込むことはなかっただろう。しかし自身の命が迫っていたのだから、冷静な判断ができないのは当然かもしれない。
“もはやここまでか”と絶望したレイであったが、その後トキによる心霊台の秘孔により僅かに命を延ばす。その後に描かれるあまりにも美しく哀しいレイの最後は『北斗の拳』のなかでも語り継がれている名シーンだ。