■35年以上前の作品なのに今読んでも色褪せないシュールな笑い

『動物のお医者さん』が連載されたのは、今から35年以上も前。まだスマホもない時代だが、いま読んでも古めかしい雰囲気はまったくない。ギャグ漫画の多くはその当時流行っていた“笑い”を感じさせるものだが、本作ではいつの時代に読んでもつい笑ってしまう面白さがあるのだ。

 たとえば、西根家がイギリス人夫婦から犬を預かるのだが、その名前がまたユニーク。きっとイギリス人夫妻は“チビ”といった意味合いで日本語の名をつけたのだろうが、付けられた名は「スコシ」。なんとも絶妙だ。

 また、菱沼が昔の恋人らしき青年と出会うシーンがある。「あのときのことを許してもらえますか」という青年に対し、許さないと断罪する菱沼。ソワソワした周りがいさめると、実はその青年は菱沼が以前盲腸炎を起こしたときの担当医であり、自分の腸を力づくでギュウギュウに詰めた医者だからと怒っていたのだ。

 手術中、上のライトに映る自分の開腹手術をずっと見ていたという、なんともシュールなエピソード。時代を感じさせず、今でも思わず笑ってしまうシーンが満載の作品だ。

 

 ちなみに主人公・ハムテルのニックネームの由来は、名前の漢字が“公輝”であり、“公”を上下に読んで「ハムテル」となった。筆者の当時のクラスメイトにも名前に“公”が付く人がいたのだが、彼のニックネームもやはり「ハム」。『動物のお医者さんブーム』が身近にあったことを思い出す。

 今読んでも全く色褪せない名作、久しぶりにほっこりしたい人はもちろん、初めて読む人にも自信を持っておすすめしたい作品だ。

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