社会現象をも巻き起こした“類を見ない”少女漫画! 『動物のお医者さん』の凄さを振り返るの画像
花とゆめコミックス『動物のお医者さん』第1巻(白泉社)

 80年代に人気だった少女漫画といえば、美しいヒロインとイケメン青年との恋愛が王道であり、登場人物を見ただけでなんとなく話の展開が分かることも多かった。しかしそんな少女漫画の常識をすべて覆したのが、『動物のお医者さん』である。

 本作は、1987年から1993年に『花とゆめ』(白泉社)で連載された佐々木倫子氏の人気漫画だ。未だに人気の衰えないこちらの作品、ここでは『動物のお医者さん』の何が凄かったのかを紹介しよう。

■美しい男女が出てくるのに恋愛要素なし! 動物たちをメインにしたこれまでにない作品

『動物のお医者さん』には、主人公の“ハムテル”こと西根公輝や、その先輩の菱沼聖子など、若くて美しい男女がたくさん登場する。

 一見すると学生同士の誰かがくっつきそうな作品にも見えるのだが、本作に恋愛ストーリーはほぼない。個性的なキャラクターがそれぞれ持ち味を出し、獣医学部での面白い日常を展開していく……という、これまでにない作品だった。

 恋愛話があったとしても、その主役の多くは動物だ。たとえば、ハムテルの家で飼うニワトリのヒヨちゃん。気性が荒いことから2羽の雌鶏とお見合いをさせ、落ち着かせようとするエピソードがある。

 このとき雌鶏の飼い主である友人の二階堂は、雌鶏があまり卵を生まない理由をエサだと言い「トリ肉が好物なんだ」とサラリと言っている。恋愛要素はないものの、このシュールな笑いが、この作品の唯一無二の魅力であると思う。

■シベリアン・ハスキーブームをはじめとした社会現象も話題!

『動物のお医者さん』は、その人気ゆえ2つの社会現象も巻き起こしている。ハムテルたちが通うのは札幌市にある“H大学獣医学部”が舞台なのだが、これが“北海道大学獣医学部”だと分かると、連載中には志望者数が跳ね上がった。本作品を見て多くの若い読者が、“将来は動物のお医者さんになりたい!”と、北大の獣医学部を受験したのである。

 そしてなんといっても有名なのが、シベリアン・ハスキーブームだろう。漫画の表紙にもよく登場したハムテルの飼い犬・チョビは、可愛らしいシベリアン・ハスキー。当時はまだ珍しい犬種であったが、「あそぼ」と言ってハムテルのあとを追う愛くるしさがたちまち人気となり、犬を飼う人はこぞってシベリアン・ハスキーを選んでいた。

 とはいえ、漫画のチョビは従順でおとなしく優しい性格なのだが、実際のシベリアン・ハスキーは犬ぞりの中型犬種であり、遠吠えをする。しつけが難しいこともあり、ブームが起きたあとは飼い主に手放されてしまったハスキー犬も多かったようだ。

 作中でも動物飼育の大変さについては触れられているが、いくら作品に出てくる動物たちが可愛くても、実際にペットとして飼うことは難しく、責任が伴うことは覚えておきたい。

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