高校野球をテーマにした大ヒットラブコメ漫画『タッチ』は、今なお語り継がれる国民的作品だ。ヒロインの浅倉南はもちろん、主人公・上杉達也とその弟・和也の”兄弟関係”こそ魅力的だとも言われている。
“きょうだい”と一口にいってもいろいろなタイプがあるが、仲が良かったりお互いを想い合っていたりする関係性は観ているこちらとしても心あたたまる。そこで本記事では、その想いに筆者も思わず心を動かされた、“兄や姉を想う弟キャラ”が魅力の作品を3つ紹介したいと思う。
■『北斗の拳』兄との約束を果たそうと命を燃やしたトキ
「お前はもう死んでいる」のセリフでも有名な『北斗の拳』。主人公・ケンシロウの義兄にあたるラオウとトキの宿命の最終決戦は、見ている者の心を打つ衝撃の結末を迎える。
自ら”拳王”と名乗り、暴力で世界を治めようとしていたラオウと、死の灰を浴びてしまい、残りの命を人を救うために生きるトキ。2人は血の繋がった本当の兄弟で、その戦いは単なる勝ち負けだけで語れるものではない。兄弟としての絆、愛情、ライバルとしての繋がり……。そして誰よりも優しいトキにとっては、唯一格闘家として野心の先にある相手との闘いであった。
かつてトキが兄の背を追い北斗神拳を学ぶことになったとき、ラオウは彼にこう告げた。「もし おれが道を誤ったときは おまえの手で おれの拳を封じてくれ!!」と。その“誓い”を果たすため、ラオウを超えるため、トキは死を覚悟して実兄との最終決戦に臨む。
トキは“柔の拳”の使い手であり、“剛の拳”を得意とするラオウとの戦いに決着はつかないかに見えた。しかし戦いの最中、トキの拳は闘気を纏い、ラオウにも負けない剛の拳を繰り出し圧倒していく。
その勢いのまま得意の空中戦へ持ち込み、必殺の秘孔を突いて勝負はついたかに見えたが、トキの拳がラオウの急所に届くことはなかった。実は彼の剛の拳は、自らの命を代償とすることで得た一瞬の力だったのだ。
ケンシロウ以上の天賦の才、ラオウでさえ「病んでさえいなければ…」と認めるその強さ。徐々に弱りゆくトキの拳に、ラオウは「きかぬのだ!!」と叫び、思わず涙を流す。兄に対するトキの熱い想いは、暴虐の王として知られるラオウの目に枯れたはずの涙を呼び戻したのだった。
■『鋼の錬金術師』兄を信頼しともに歩んできたアル
『鋼の錬金術師』にも、兄を想う優しい弟キャラが登場する。天才錬金術師である兄エドワード・エルリックと弟のアルフォンスは、かつて最愛の母を甦らせるため禁断の人体錬成を試みるも、結果は失敗。エドは左足と右腕を、アルは肉体のすべてを失ってしまい、元の身体に戻るための旅に出ることになる。
「何かを得ようとするなら それなりの代価を払わなければいけない」――これが錬金術の基本であり、物語の核でもある“等価交換”の考え方だ。
本作の序盤で登場する少女・ロゼは、失った恋人を蘇らせてほしいという思いから“奇跡の業”を使うとされる教主コーネロの力にすがっていた。人体を錬成することの危険と困難を説明されても彼女にはイマイチピンとこないようで、人体錬成だけでなく錬金術自体がそこまで大変なものだと思っていなかった。
そんなロゼに対し、アルは等価交換の概念を持ち出したうえで兄への想いを語り出す。「兄さんも『天才』だなんて言われてるけど 『努力』という代価を払ったからこそ今の兄さんがあるんだ」と。
最年少で国家錬金術師の資格を得て天才と呼ばれているエドも、決して順風満帆な人生を送ってきたわけではなかった。錬成に失敗して多くを失い、それでも血のにじむような努力を積み重ねてきたからこそ、今”天才”と呼ばれているんだと、アルは言いたかったのだろう。
兄・エドを信頼しているだけでなく、その努力と悲しみを一緒に背負う弟アルの言葉が、読者の心に深く刺さった名シーンだった。