現代では、VRによってさまざまなリアリティの空間が演出されている。ゲームでも迫力のある映像や世界観に息を呑むものだ。まさに次世代の技術といえるのだが、実はなんと1980年代にこのアイデアを取り入れていた漫画がある。
そう『コミックボンボン』(講談社)の『プラモ狂四郎』(原作:クラフト団、作画:やまと虹一氏)だ。この漫画では「プラモシミュレーションマシン」という機械を使って自分の「ガンプラ」(ガンダムのプラモデル)をシミュレーションバトルさせていく。当時の筆者たち小学生は、みんな虜になったものだった。
さて、そんな『プラモ狂四郎』の凄さを振り返ってみたい。
■ガンプラブームに拍車をかけた! みんな憧れたガンプラ同士の斬新なバトル
『プラモ狂四郎』は1982年に連載がスタートしたが、当時は『機動戦士ガンダム』の再放送とガンプラが社会現象になるほど人気を誇っており、近所の模型店(プラモデル屋さん)には“憩いの場”として子どもから大人まで人だかりができていた。
当時小学生低学年だった筆者にとって、ガンプラは組み立てること自体が大変だったため、兄に手伝ってもらって完成したときには感動した。そして完成後は、ガンプラ同士の“ごっこ遊び”を机で楽しんでいたものだった。
そんなガンプラをテーマにしたのが、『プラモ狂四郎』だ。主人公・京田四郎が近所にある模型店「クラフト・マン」内にあるプラモシミュレーションマシンによって、ガンダムの世界観に入り、ガンプラを操縦してライバルと戦っていく。
これには憧れた。自分で作ったガンプラをコクピットに入って操縦するという発想が、まず素晴らしい。もともと人気が高かったガンプラだが、本作によってさらにブームに拍車をかけたといっても過言ではない。
それにしても、この装置を開発したのがクラフト・マンの店長でもある倉田太というから驚きだ。温厚なオジさんなのだが、こんなシミュレーション装置を作れるなんて、天才科学者を超えているだろう。
“自分で作ったプラモデルが飛んだり走ったり戦ったりすると面白そうだ”と思い、3年がかりでこのシミュレーションを作ったという。いやいや、この技術はとんでもないもので、昭和の時代にすでに現在のVRを超えているだろう。
こんな技術者がいたら、NASAからスカウトが来てもおかしくない。超大金持ちになれたかもしれないのに、呑気なオジさんだ。
■腕が上がらないゲルググ? ガンプラの弱点を突いてくる戦術に興奮!
本作のバトルには実際のガンプラを用いるのだが、これがまた面白かった。当時は1/144スケールのガンプラが主流で、漫画でもこのサイズが基本だった。そして、ガンプラのなかには関節が曲がらない、足首が可動式でないというモデルもあり、これが弱点となってしまうこともあるのがリアルだ。
ガンプラの弱点を突いてくるのが高等戦術でもあり、当時としてもユニークな視点だったと思う。旧タイプのモデルだとザクの足首が曲がらないというシーンがあるのだが、なるほど……兄の作ったザクは確かに足首が曲がらない。かなり緻密にガンプラをリサーチして描かれているので、実際にプラモを作っている読者層が入り込む要因となっただろう。
だが、『プラモ狂四郎』に登場するキャラたちは、この弱点を改造してくる。オリジナルの改造アイデアがシミュレーションにも反映されるので、バトルの戦術の幅が広がっていき大興奮したものだ。
筆者は『機動戦士ガンダム』の後半に登場するゲルググが好きだったのだが、旧タイプのガンプラではゲルググは胴体と肩が一体になっているので、腕が上がらない。もちろんバトルでは致命的な欠点なのだが、こんな指摘をできる『プラモ狂四郎』って凄いと思ったものだ。