『北斗の拳』(原作:武論尊氏、作画:原哲夫氏)には、主要キャラの拳法家以外にも数多くの一般市民が登場する。彼らのなかには残虐なザコキャラによって酷い目に遭わされる人もいるのだが、一方で非情な行動をする輩もいる。そんな一般市民たちのとった非情な行動を見ていこう。
■死の灰が迫るなか…トキをシェルターに入れなかった中央に陣取る女性
まずは、ケンシロウがレイにトキとの回想シーンを語るところで登場するシェルターの場面だ。核戦争が行われて死の灰が迫るという恐怖……これにはさすがの北斗神拳も太刀打ちできない。
そこで、ケンシロウ、トキ、ユリアの三人はシェルターに避難しようと急ぐのだ。しかし、そこには大勢の子どもたちが避難していた。引率しているであろう女性は「ご…ごめんなさい ここは もうひとり いえ…どうつめてもふたりまでです!!」「時間が ありません すぐに死の灰が押しよせてくるわ!!」と、安全な室内から子どもを盾に言ってくる。
ここでトキは自らを犠牲にしてケンシロウとユリアを押し込み、微笑んで外から扉を閉める。ケンシロウはすぐに開けようとするのだが、子どもたちのために諦めてしまう。
スピンオフ作品でもネタにされているこのシーン。連載当時に小学生だった筆者でさえ、もっと詰められるだろうと思ったもの。
しかし、分からないのがこの女性だ。自分はシェルターの中央付近に陣取り、扉から離れた場所で早く閉めろとわめいている。子どもたちが大勢いるから仕方ないかとも思えるのだが、よく考えると自分が先に入って、あとから子どもを入れたのではないのだろうか。普通は扉の前で誘導するはずだ……。
しかもどう見てもユリアやケンシロウ、そしてトキよりも年配である。将来ある若者のため、自らが犠牲になるという精神はなかったのだろうか。扉を開けて死の灰を浴びたトキを見て、どう思ったのだろうか聞いてみたいものだ。「だって緊急避難だもん」なんて言ってそうだが……。
■一人の少年を犠牲にしてほかの子どもを守ろうとしたタカの母親
聖帝・サウザーが支配している地域では、子どもをさらって労働力にするという残酷な世界が描かれている。
ここに登場するのが少年・タカとその母親で、必死になって自宅へ走り帰るシーンがある。母親はタカを床下に隠れさせるのだが、運の悪いことにゴロツキが外から覗いていた。
どうやら子どもをさらって差し出せば、聖帝正規軍に入れるらしい。母親は懸命に守ろうとするのだが、軽く殴られて吹っ飛んでしまい、タカは連れていかれてしまう。
しかし実は、母親はタカを犠牲にすることでほかの5人の子どもを守ろうとしていた。彼らもタカと同じように、隣の床下スペースに隠れていたのだ。「お…おまえをこうやって犠牲にしないとほかの子供たちまで……」と泣きながら訴える母親。
この非情な行動は非難されることもあるだろうが、こればかりは非力な女性一人ではどうしようもなかったのだろう。
もちろん、母親はタカも守りたかったと思う。それでも犠牲にされたタカからすると、たまったものではない。さらに、この5人ももう一人のゴロツキによって奪われそうになってしまった。ケンシロウやシュウが来たから良かったものの、場合によっては最悪の事態になっていただろう。
それにしても、原作でのタカってどうなったのだろう。(アニメではケンシロウによって救出されていた)まあ、リンとバットもシュウによって助けられていたようなので、同じように誰かに助けられていたものだと信じたい。