■やっぱり短い睡眠時間!? 漫画家たちの驚きの睡眠事情

 漫画家の激務エピソードで切り離せないのが、やはり“睡眠時間”だろう。

 漫画の神様でも知られる手塚治虫さんの睡眠時間は、3日で3時間。そんな生活を40年も送ってきたというから驚く。ほぼ睡眠を取らず、1日中部屋にこもって漫画やアニメを描き続けた生活は鬼気迫るものがあっただろう。

 当時まだ若かったアシスタントたちはそんな手塚さんの働きぶりを間近で見て、“漫画家とはこういうものなのだ”と刷り込まれていったそうだ。漫画家の睡眠時間が少ないのは、手塚さんの影響が少なからずあったのかもしれない?

 また、睡眠時間が少ないのは男性漫画家に限ったことではない。

ガラスの仮面』で知られる美内すずえさんは、睡眠が少なすぎてよく幻覚を見ていたという。彼女のアシスタントであり漫画家の笹生那実さんは、当時のエピソードを『薔薇はシュラバで生まれる』で描いている。

 徹夜で作品を執筆中の美内さんは天井を見上げ、“あそこにいるカブトムシが見える?”と聞いてくる。もちろんカブトムシなど存在はせず、それは眠気覚ましを飲みすぎた美内さんの幻覚であった。当時の睡眠時間は1日15分、終了後は座りっぱなしで足がむくみ、ブーツが入らなかったといったエピソードもある。

 そして、世界的アニメ『ドラゴンボール』の作者である鳥山明さんの睡眠時間は、多忙のピーク時にはなんと“1週間で20分”。このときは4日間徹夜したあと、たった20分間の睡眠を取り、その後さらに3日間徹夜をしたというから驚きだ。

 昭和〜平成初期の漫画業界は人気作品のオンパレードだったが、その裏で漫画家たちは自らの体を酷使しながら作品を描き上げていた。漫画史に残るこれらの名作たちは、彼らの血と汗の結晶といっても過言ではない。

 

 昭和の時代には「眠らず働くことがカッコいい」といった風潮もあった。しかし、それに反したのが『ゲゲゲの鬼太郎』などで知られる水木しげるさんだ。彼はどれだけ忙しくても1日10時間眠ることを心がけ、徹夜をする手塚治虫さんや石ノ森章太郎さんを心配し、睡眠の大切さを説いていたそうだ。そして、水木さんは93歳まで天寿を全うした。

 まさに命を削り、身を捧げてまで作品を生み出してくれた昭和の漫画家たち。素晴らしい作品を残してくれたことには感謝しつつ、今、活躍している漫画家たちにはどうか体をいたわりながら、素敵な作品を描いてほしい。

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