アトムや百鬼丸も…『ブラック・ジャック』に登場した“手塚治虫作品のスター”たちのエピソードの画像
少年チャンピオン・コミックス『ブラック・ジャック』第9巻 (手塚プロダクション)

 “マンガの神様”とも称される手塚治虫さんが使用していた「スターシステム」をご存知だろうか。
 これは自身が生み出したキャラをまるで本物の俳優のようにとらえ、さまざまな“役”を演じさせるというもの。ある作品のキャラがほかの作品ではまったくの別人を演じる……といった具合で、たとえば『鉄腕アトム』の主人公・アトムが脇役として出てくる作品もある。その際には、“アトムとして”ではなく、“アトム演じる◯◯として”登場するわけだ。

 手塚さんの代表作のひとつであり、今年連載50周年を迎えた『ブラック・ジャック』にも、このスターシステムは取り入れられている。そこで今回は、本作に登場する“スター”の中から、とくに筆者の印象に残っている者をピックアップして紹介していこう。

 ※記事内に出てくる巻数は、すべて秋田文庫版のものを指す。

 

 まずは、冒頭でも触れた『鉄腕アトム』の主人公であるアトム。もちろん『ブラック・ジャック』ではロボットではなく、人間の少年として登場している。

 1コマだけ描かれるケースもあるが、「おまえが犯人だ!!」(9巻)では強盗に殺害された兄の敵討ちを誓う少年役に。復讐のため危険を冒す姿が印象的で、主役級の活躍を見せている。彼の復讐がどんな結末をたどるのか、そしてそこにブラック・ジャック(以下BJ)がどう絡んでくるのかも見どころだ。

 また「鬼子母神の息子」(12巻)では、誘拐犯の母親を持つ幼い少年・伊佐男として登場。母親の正体には気付いておらず、子どもらしく無邪気で可愛らしい表情をたくさん披露している。母親と「このご本よんで」「アトムよ」というやりとりをしたり、アトムになりきって「ブーン」とはしゃいだりするシーンもあり、思わずクスリとさせられてしまった。

『どろろ』の主人公のひとり・百鬼丸も、なかなか味わい深い役を演じている。

「灰とダイヤモンド」(10巻)では真面目な医者・百鬼博士役として出演しており、ある患者をめぐってBJと対立。怒りにまかせてBJにつかみかかる場面もあるものの、最終的にどういう決着になるのかは、ぜひ本編を読んで確かめてみてほしい。

「ミユキとベン」(16巻)では不良少年・ベンに扮しているのだが、ここでは『どろろ』のもうひとりの主人公であるどろろも共演している。名もなきキャラだが、ベンを「あにき」と慕い、ついて回る姿がなんだか可愛らしい。ベンがミユキという少女に一目惚れしたところから動き出すエピソードで、不良少年の献身的な愛が描かれている。

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