漫画といえば欠かせないのが擬音や効果音の数々だ。作家によってそれぞれ違いがあり、文字からシチュエーションのイメージが湧きやすいものもあれば、「どうやって思いついたの?」というような個性的でインパクトのある擬音・効果音を書く人もいる。
本日10月10日は『うる星やつら』や『めぞん一刻』『らんま1/2』『犬夜叉』『境界のRINNE』など数々のヒット作を生み出した漫画家・高橋留美子氏の誕生日。氏の漫画作品では珍しい擬音が登場するが、その中で特に印象的なもののひとつが「ちゅどーん」だ。今回はそんな「ちゅどーん」のルーツを紹介するとともに、高橋留美子氏が描いた数々の擬音・効果音について深堀しようと思う。
大きな衝撃が加わったときの「ドカン!」や殴られたときの「バキッ」、鳥肌が立ったときの「ゾクゾク」など、バラエティ豊かな擬音・効果音はストーリーに臨場感と彩りを加える。
高橋留美子氏の世界観を総称する「るーみっくわーるど」の作品では、頻繁に「ちゅどーん」という効果音が使用されていた。この効果音は漫☆画太郎氏の作品などにも登場することがあったが、最も使用頻度が多かったのが高橋留美子氏である。
■70年代サンデー名作ギャグ漫画『できんボーイ』からのインスパイア
「るーみっくわーるど」の中でも、「ちゅどーん」は 『うる星やつら』や『らんま1/2』といったコメディタッチの作品に多く登場していた。爆発シーンに見立ててキャラたちが吹き飛ばされるシーンで見られる傾向があり、この効果音が印象に残っているという読者も多いだろう。
実はこの効果音、考案者は高橋留美子氏ではなくギャグ漫画家の田村信氏で、1976年に『週刊少年サンデー』でスタートした田村氏のギャグ漫画『できんボーイ』3巻で「ちゅどーん」が初登場した。
田村信氏は、2016年にツイッター(現X)で「『ちゅどーん』は僕が考案したのですよ。それ以前には無いです」と断言している。古いアメコミの格闘シーンで描かれていたパンチ音が「Cud!Cud!Cud!」だったことをヒントに、「ちゅどーん」が生み出されたそうで、それが1978年に『勝手なやつら』でデビューした高橋氏の作品にも継承されていった。
高橋氏も2021年にツイッターで、ファンからの質問に答える形で「ちゅどーん」について発言。「『ちゅどーん』の発明者はサンデーで『できんボーイ』という漫画を連載されていた田村信先生なのです」「大好きでオマージュのつもりで拝借したら、私発信みたいになってしまい申し訳ないです。田村先生、すみません」と説明している。田村氏の作品には「ちゅどーん」以外にも「みゅいん」や「ぐもー」といった独特で斬新な擬音がてんこ盛りなので、未読の方はチェックしてみてはいかがだろうか。
また、「るーみっくわーるど」では「ちゅどーん」によって飛ばされたキャラたちの多くが飛ばされながら人差し指・小指・親指を立て、中指・薬指を折る個性的なポーズを取っている。ファンの間で「ちゅどーんポーズ」とも呼ばれるこの手の形は、高橋留美子氏が作品の中で好んで使うハンドサインだ。
この手の形について過去のインタビューで、「あんまり考えずに描いたんですけど」と前置きした上で、「そのままぶっ飛ばされると『痛そう』『酷い』って印象を持たれてしまうかもしれないんだけど、この手になってると不思議とちっとも深刻にならなくて、大丈夫なんだとわかるだろうと思って描いたんですよ」と答えている。