『ガンダム』シリーズの中でも最も有名なキャラクターのひとりであるシャア・アズナブル。彼は『機動戦士ガンダム』の続編である『機動戦士Zガンダム』ではクワトロ・バジーナと名前を変えて登場し、主人公の味方側として活躍した。
戦争をテーマとした同シリーズでは、シャアのように名前を変えて生きるキャラクターは定番となっているが、今回はその中でも、特に壮絶な人生を送ることとなった人物たちを振り返っていきたい。
■キンケドゥ・ナウとシーブック・アノー
まずは1991年の映画『機動戦士ガンダムF91』の主人公シーブック・アノー。普通の高校生活からなし崩し的にモビルスーツで戦闘することになった彼は、戦闘にも馴れていない。
かなり普通の優等生といった様子で、模範的な性格のシーブック。初期ガンダム主人公にある、思春期特有の反骨精神や情緒の不安定さも比較的少ないので、『ガンダム』シリーズを見慣れた人にとってはかなり大人しめの性格に感じるだろう。
しかし、長谷川裕一氏による漫画『機動戦士クロスボーン・ガンダム』シリーズでシーブックは、一転して海賊らしい過激な性格に変貌。名前も「キンケドゥ・ナウ」を名乗るようになっている。
その変貌ぶりに、ゲーム作『SDガンダムGジェネレーションF』で、初めて声を当てた声優の辻谷耕史さんは、キンケドゥを演じた際にシーブックと同じ人物だと気づかなかったという逸話を持つ。
しかし『機動戦士クロスボーン・ガンダム』の物語が進むごとに、主人公であるトビア・アロナクスの良き先輩となっていき、キンケドゥは彼の模範となっている。根っこの部分の性格はやはりシーブックと同一だと感じる。
シーブックおよびキンケドゥの人生は壮絶で、高校生生活からなし崩し的にF91のパイロットへ。無人の対人兵器「バグ」や、巨大な植物のようなモビルアーマー「ラフレシア」といった、『ガンダム』シリーズの中でもクセが強い機体を相手に戦うこととなる。
『機動戦士クロスボーン・ガンダム』では、コックピットをビームサーベルで貫かれた状態で大気圏に突入。瀕死の重傷となったが生還し、再び戦線へと復帰している。
■プロスペラ・マーキュリーとエルノラ・サマヤ
2023年7月に大盛況のうちに終わったシリーズ最新作『機動戦士ガンダム 水星の魔女』。その実質的なラスボスとなった、主人公スレッタ・マーキュリーの母親プロスペラ・マーキュリーも名前を変えて生きる人物のひとり。
プロスペラは、『水星の魔女』本編では、自身の目的である「クワイエット・ゼロ」計画を実行させるために、どんな冷酷な手段もいとわない復讐者であったが、前日譚である『機動戦士ガンダム水星の魔女PROLOGUE』では、エルノラ・サマヤとして登場。ガンダム・ルブリスのテストパイロットで、夫のナディム・サマヤは同モビルスーツの開発マネージャーだ。
娘のエリクトを含め家庭環境は良好であったが、所属しているラボが襲撃され、ナディムが戦死。自身とエリクトは、ガンダム・ルブリス1機だけで逃亡生活を送ることとなる。
そして本編に至るという、復讐に取り憑かれるのも無理が無いと感じる壮絶な出来事であった。
『水星の魔女』では非道な行いをし、視聴者からも恐れられることとなったプロスペラ。だが実はそこまでスレッタを自身の駒として扱っておらず、むしろ愛情を注いでおり、加えて他の企業人も惨いことをやっていたことが物語が進むにつれて発覚していく。
『水星の魔女』世界基準で見ると、彼女はそれほど酷い人物ではなかったのではないかと見る人は多いだろう。