■度胸と根性の柴千春をゴキブリダッシュで撃破!
最後は、『範馬刃牙』での、金髪のリーゼントに特攻服という典型的なヤンキーキャラである柴千春との一戦だ。これはかなり見ごたえがあった。普段の刃牙なら千春のような弱者は相手にしないか、あっさりと倒してしまうのだが、この戦いでは刃牙の新たな力を知ることができた。それが「ゴキブリダッシュ」だ。
刃牙がゴキブリを師匠と仰いで、その動きからヒントを得て身に付けることができたのが、「肉体の究極の弛緩」である。肉体をドロドロに溶かすイメージをして、そこから一気に加速。それによって爆発的な瞬発力を生み出し、相手の目にも止まらない一撃を与えることになるのだ。
実力的には全く問題にならない千春との戦いに、刃牙はテーマを求める。何か課題を設定しなくては、度胸と根性だけは並外れているが格闘については素人である千春と戦う意味がないからだ。そしてたどり着いた答えは、「柴千春流」とでもいうべき、自分の急所を相手に全力で叩きつける戦い方をそのまま返して凌駕してみせることだった。千春の目潰しに対して自ら目を当てに行くことを宣言した刃牙。それは普通であれば失明を免れえない暴挙とも言える。
しかし、そんな非常識な課題を刃牙はゴキブリダッシュでクリアしたのだ。構えた指先に刃牙が自ら眼球を当てにいくと、そのあまりにも速すぎるスピードに指を折られた千春は、唯一の拠り所である戦意をも喪失してしまった。
本来なら必要のないリスクを敢えて負いながらも、完膚なきまでに千春を叩き潰した刃牙。この戦いでは単純な強さだけではない、心の強さまでをも証明してみせた。
『刃牙』シリーズに登場したヤンキーたちには、格闘家ではないからこその持ち味がある。能力としては一般人レベルでしかない彼らだが、ヤンキーには独自の「強さ」の尺度があり、それが実戦の中で発揮されるとき、格闘漫画が本来持ち得ない価値観が持ち込まれるのだ。