■メイクで可憐に残酷に変身…『ゴージャス☆アイリン』荒木飛呂彦
さまざまな能力バトル漫画があるなかで、ジャンプを代表する一作といえば荒木飛呂彦氏の『ジョジョの奇妙な冒険』だろう。今もなお独自の世界観を描き続けている荒木氏だが、一方で女性を主人公にした一風変わった作品も手掛けている。
1985年には『週刊少年ジャンプ』の特別編集である『AutumnSpecial』に、そして1986年には特別編集『スーパージャンプ』創刊号にそれぞれ掲載されたのが、『ゴージャス☆アイリン』だ。
主人公は16歳の美少女、アイリン・ラポーナで、彼女はなんと“メイク”によって変貌し任務を遂行する“殺し屋”である。
普段はどこか抜けたところのある純朴な少女なのだが、ひとたびメイクを施すと性格だけでなく骨格や体格まで変化し、凄まじい戦闘能力を発揮する特異体質。これは自身に一種の“暗示”をかけたことによる効果なのだが、それを応用して他者にまで暗示をかけ、肉体や精神を操作することも可能だ。
作中では敵に自らを断裁させて自滅させたり、ともに暮らしていた男性に暗示をかけて地雷原のなかで平然と暮らさせたりと、かなりの応用幅を見せていた。
メイクの力を使いこなしさまざまな技法でターゲットを殺害するその姿は、残酷でありながらもどこか妖艶な色気も秘めている。そんな奇抜な設定もさることながら、相手の武器や能力を逆手に取って勝利するという意表をついた展開も、荒木氏がのちに連載する『ジョジョの奇妙な冒険』のエッセンスとして、しっかりと受け継がれているように思う。
ジャンプ作品ではどこか珍しい女性主人公だが、とくに読み切り作品において、魅力的な女性キャラクターたちもたびたび登場している。のちの連載作品に設定が受け継がれているものも多く、人気作品のルーツを巡ることもできる点は実に興味深い。