『週刊少年ジャンプ』の作品では、男性キャラクターが主人公となるパターンが非常に多いものだが、一方で徳弘正也氏の『シェイプアップ乱』や、北条司氏の『キャッツ・アイ』のように女性を主人公としている作品も登場している。そこで、ジャンプ漫画作家たちが手掛けた“女性主人公”が登場する作品について見ていこう。
■読み切り作品の随所に見られる人気作のルーツ…『ギャル刑事トマト』『PINK』鳥山明
鳥山明氏といえば、『Dr.スランプ』や『ドラゴンボール』といった数々の国民的人気作品を生み出した、ジャンプを代表する漫画家だ。実は鳥山氏は『Dr.スランプ』のように、女性主人公が活躍する作品も数多く手掛けている。
たとえば、1979年の増刊号で掲載された『ギャル刑事トマト』。警察署にやってきたやる気のない新米女刑事・赤井トマトを主人公に、彼女が偶然にも凶悪犯と出くわしてしまうことで巻き起こる珍騒動を描いた一作だ。
実は本作の主人公が女性になったのは、当時の編集担当の案だったという。鳥山氏自身はイヤイヤながら描いていたというが、結果的にこの設定やキャラクター性がうけたので自身も満足したとのことだ。
また、本作をきっかけに前述の『Dr.スランプ』の主人公・則巻アラレが女性になったという経緯もあり、大ヒット作が誕生するルーツともなった重要な一作でもある。
さらに、1982年に掲載された読み切り作品『PINK』でも、鳥山氏は女性主人公・ピンクを描いている。雨が降らない砂漠の街を舞台に、水を占有する大企業から盗みを働いた主人公が偶然にも巨大な陰謀を暴いていく……という冒険活劇の本作。
いずれの作品も、女性主人公でありながら躍動感あふれる表現や破天荒な冒険劇など、ほかのヒット作にも通ずる鳥山氏独自のエッセンスが散りばめられており、“少年漫画”としての痛快さは何ら変わることはない。
これらの読み切り作品は『鳥山明◯作劇場』に収録されており、『PINK』においては『Pink みずドロボウあめドロボウ』のタイトルで劇場アニメ化もされている。
女性を主人公に据えた鳥山氏の新たな表現を見ることができるだけでなく、のちに続くヒット作の面影も感じ取ることができる、実に味わい深い作品ばかりだ。
■ヒット作からは想像できない? 『クライムスイーパー』武論尊
『北斗の拳』や『ドーベルマン刑事』といった数々の名作を手掛けた原作者・武論尊氏。1972年に掲載された読み切り作品『五郎くん登場』で原作者デビューを果たした武論尊氏だが、実は連載デビュー作は女性主人公が活躍する作品だったことをご存じだろうか。
1973年に逆井五郎氏が作画を担当した『クライムスイーパー』こそ、その記念すべき連載デビュー作である。
日本の平和を維持するため、陰で活躍する犯罪掃除人こと“クライムスイーパー”の活躍を描いたアクション作品で、美少女にして超一流エージェントである主人公・三条雅が犯罪企業「黒い女王」と戦っていくストーリーだ。
武論尊氏がのちに手掛ける数々の作品に比べると、美少女キャラクターや柔らかいタッチが目立っており、とくに雅の可愛らしさが前面に押し出されているのが特徴だ。パンチラや水着姿といったいわゆる“お色気シーン”も多く、武論尊氏を知る読者からすれば、その世界観の違いに驚いてしまうかもしれない。
しかし、ただ可愛いだけでなく、身につけた数々の特殊技能で大活躍するのが、雅のエージェントたるゆえんだ。銃器を用いた射撃術、柔道や剣道を活かした対人戦やバイクや航空機といったさまざまな乗り物のドライビングテクニック、爆薬の扱いにまで長けており、八面六臂の活躍はまさに超人的で見応え十分。
本作は第1部連載後、休止期間を経て第2部が『ピンク!パンチ!雅』のタイトルで、再び連載されている。のちに熱い男たちが活躍する作品を手掛けることとなる武論尊氏だけに、美少女とエージェントという取り合わせがどこか意外なデビュー作だ。