■大地の呪霊・漏瑚と豊穣の神・大黒天
五条と対戦した大地の呪霊・漏瑚も、「蓋棺鉄囲山」という領域展開を見せた。
掌印は指を絡ませて両手を組んだ状態から、薬指と小指を立て、左右の薬指の腹同士を突き合わせる。組んだままの人差し指と中指を少し浮かせて掌の間に隙間を作り、そこに絡ませた両親指を入れる。作り手から見ると、どことなく漏瑚の顔に似た形ができあがるので、ぜひ実際にやってみてほしい。
これと近いのが、大黒天の印だろう。若干違うのは、こちらは薬指を合わせることなく、左右離したままで指を立てる形になる。
“大黒さん”といえば七福神の一人で、米俵に乗った、人の良さそうなオジさんの姿で描かれることが多い。五穀豊穣を司る農神としての一面があり、この点は大地への恐れから生まれた漏瑚と共通するイメージだ。しかし大黒天のルーツは、ヒンドゥー教の破壊神・シヴァ神の異名であるマハーカーラ。青い身体を炎に包まれながら憤怒の表情を浮かべるこの神は、本来はゴリゴリの武神であり、大黒天も実は戦勝祈願の本尊だという。
マハーカーラの青い肌、炎、怒りっぽい点は、まさに漏瑚だ。また、人の良いオジさんどころか実は武闘派というところにも、五条のせいで噛ませ犬的なキャラになってしまったが本当はめちゃくちゃ強いという、漏瑚らしい一面が見えてこないだろうか。
■呪いの王・両面宿儺と地獄の王・閻魔天
最後に、本作最大の敵である両面宿儺。領域展開「伏魔御厨子」の掌印は、合掌した状態から両手とも人差し指と小指を曲げ、左右の人差し指同士、小指同士の第二関節をくっつける。
この印は、閻魔天の印とそのまま一致する。閻魔天とは地獄の王・閻魔大王のもう一つの姿であり、先の帝釈天とともに、十二天の一尊として仏教の守護神になっている。ちなみに閻魔天は水牛に乗っているとされており、生得領域での宿儺が積み上げた牛の頭骨の上に座っているのも、このイメージから来ているのかもしれない。
ルーツは、インド神話における人類の始祖にして死者の主・ヤマ。「ヤマ」とはサンスクリット語で「双子」を意味するそうで、このあたりも、二人分の面と手を持つ両面宿儺とどこか通ずるものがある。いずれにしても、呪いの王と地獄の王、イメージとしてはぴったりだ。
以上、『呪術廻戦』に登場する掌印についていくつか紹介した。この先もたくさんの印が登場するので、仏教や密教に興味のある人は調べてみると面白いのではないだろうか。
なお、今回の内容は豊島泰国氏の『図説 日本呪術全書』(原書房)を参考にしている。密教のみならず、あらゆる宗派の呪術について記されており、『呪術廻戦』ファンにはぜひお勧めしたいところだ。