身を挺して誰かを守る行為は、どんな場面においても人の心を打つものだろう。漫画作品においても、一進一退の攻防を繰り広げる最中や、主人公に最大のピンチが訪れるような場面で身代わりとなり体を張るキャラたちが登場するが、その姿にはグッとくるものがある。
そこで今回は、他者のために身を捧げたキャラクターと名シーンを紹介していこう。
■始皇帝の影武者として命を捧げた『キングダム』漂
原泰久氏による『キングダム』にも、身代わりとなり命を燃やしたキャラが登場する。それが、主人公・信の親友の漂だ。序盤に登場しただけだが、物語の重要な役割を担っていることや、正義感が強く誠実な性格の持ち主という点で、いまだに人気が高いキャラでもある。
戦争孤児の漂は、信とともに村長の里典の家で下僕として暮らしていた。2人の夢は、天下の大将軍になること。夢を叶えるべく、日々2人で武芸を磨いていた。
そんなとき、漂に運命の出会いが訪れる。偶然通りかかった泰国の大臣・昌文君に見出され、王宮に仕えるよう命じられたのだ。
昌文君の目的は、秦王・嬴政にそっくりな漂を影武者にすることだった。王宮にて嬴政と対面し、自分の立場を理解した漂。“もしかしたら自分と間違えられて殺されるかもしれない”と最悪のシナリオを告げられたにもかかわらず、「もとより全てを懸ける覚悟です」と言い切った。
そんな矢先、嬴政の実弟の成蟜が反乱を起こす。追い詰められた嬴政勢だったが、漂は影武者になりきり、士気が下がる軍隊に発破をかけながら先頭を切って戦いを挑む。その姿を見た壁の「その姿はすでにもう将であった」という発言からも、漂に将軍としての資質があったことが伺える。
致命傷を負い、瀕死の状態で信のもとへと向かった漂は信にすべてを託し力尽きた。のちの信の飛躍の原動力は、漂がいたからこそ。死してなお、信に大きな影響を与え続ける彼の存在の大きさははかりしれない。
嬴政の影武者となったときから、漂は自身の夢を捨てて命を捧げる覚悟ができていたのかもしれないと思うとあまりに切ないが、聡明で強い信念を持つ漂だからこその選択には、強く心を揺さぶられた。
■人のために生きた北斗神拳最強の使い手『北斗の拳』トキ
続いて『北斗の拳』(原作:武論尊氏、作画:原哲夫氏)の北斗4兄弟の次男・トキを紹介したい。ラオウの実弟ながら気性が荒いラオウとは正反対で、誰より優しく愛情深い性格をしている。医師という夢を持っていた彼が北斗神拳を極めたのも、“兄が道を誤った時に自分の手で拳を封じるため”と、ラオウへの愛と尊敬ゆえだった。
類まれなる強さを身につけたトキは伝承者の最有力候補となるが、核戦争の最中、ケンシロウとユリアとともに向かったシェルターで悲劇が起こる。なかには子どもたちがおり、2人しか入る余地がなかったのだ。トキは迷うことなくケンシロウとユリアを押し込み、笑顔を見せながらシェルターの扉を閉めた。
数週間後に扉を開けると、そこには倒れているトキの姿が。瀕死の状態にも関わらず「や…やあ…」という言葉とともに見せた笑顔からはまっすぐな愛が感じられ、見返りを求めない慈愛の魂に胸を打たれてしまう。
トキは病に侵されたことで伝承者の道を絶たれるが、暴君となったラオウを倒すべく戦いに挑み、拳士としての責務をまっとうした。衰えたトキの攻撃は効くこともなく、そんな姿にラオウは「病をえず 柔の拳ならばオレに勝てたかもしれぬものを!!」と涙を流すのだった。
人生の幕を降ろす時も、トキは人のために身を捧げた。ケンシロウの怒りを引き出すために殺戮を繰り返していたリュウガに対し、“次の時代の礎となるならば本望”と、命を投げ出したのだ。人生のすべてを人を守り愛するために捧げたトキは、偉大な人格者であり深い愛の持ち主だったと言えるだろう。