北川景子に泉里香も出演、実写版『美少女戦士セーラームーン』はここがスゴかった!かつてない意欲作を振り返るの画像
『美少女戦士セーラームーン』第1巻 [DVD](バンダイビジュアル)

 2003年から2004年にかけてTBS系列で放送された特撮テレビドラマ『美少女戦士セーラームーン』は、北川景子さんの女優としてのデビュー作である。

 その北川景子さんが2023年6月30日に公開された映画『美少女戦士セーラームーンCosmos』後編で、遠い未来のセーラームーンの姿である「セーラーコスモス」の声優に起用されたことをきっかけに、再度この過去の実写ドラマ版が話題になっている。

 今回は、意欲作ともいえる、特撮ドラマとして描かれた実写版『セーラームーン』を振り返りたい。

■実写セーラームーンのファンタジーになりすぎない世界観

 武内直子さんによる漫画『美少女戦士セーラームーン』が1992年に『なかよし』で連載開始され、同年にテレビアニメもスタート。同作はバブルの残り香や90年代の雰囲気がそこかしこに描かれているものだった。

 それを実写版では、物語の舞台を放送期間に合わせて20世紀から21世紀にアレンジ。登場人物の性格や設定が現実風に大胆に変更されていた。分かりやすい例としては、原作漫画やテレビアニメではキャラクターの髪色が金髪や青髪など派手なものだったのに対して、実写版では普段は茶髪や黒髪で、変身するときだけ色が変わるというものだった。

 この「変身直後に大きく見た目が変わる」というのは、作品に「ファンタジーになりすぎない世界観」と「少女の憧れ」を融合させるというポイントになったのではないだろうか。

 また、一年という長期間で描かれるテレビ放送の特撮ドラマといえば、多少なりともどうしてもチープさを感じてしまうものである。それは20年前の実写版『セーラームーン』だけにいえることだけでなく、現行で放送されている特撮ドラマにも多少なりとも感じるものであり、これこそ特撮作品の「味」であるともいえるだろう。

 実写版『美少女戦士セーラームーン』ではこの独特な特撮感と『セーラームーン』の世界観が意外とマッチしており、特撮慣れしている人からすれば楽しめる作品になっていたように思う。それもそのはず、スタッフのほとんどが前年度に放送された同じく東映の作品『仮面ライダー龍騎』と同じであり、特撮ドラマや数多くのテレビアニメでシリーズ構成や脚本を務める小林靖子さんが脚本を担当しているのだ。

 特撮特有の空気感にワクワクするだけでなく、全49話の中で原作の第一部に相当するクイン・ベリルとの戦いまでを描き切っているのも評価すべき点。さらにキャラクターの葛藤を描いたドラマ要素は旧アニメ版よりも色濃く描かれており、ドラマだからできることを引き出そうとしているように感じられる。

■今なお「戦士会」を行う相性抜群のキャスト陣

 何より高く評価されているのがキャスティングだろう。セーラー戦士たちは、セーラームーンを沢井美優さん、セーラーマーキュリーを浜千咲さん(現・泉里香)、セーラーマーズを北川景子さん、セーラージュピターを安座間美優さん、セーラーヴィーナスを小松彩夏さんが演じた。

 それぞれ見た目のイメージがキャラにぴったりというだけでなく、今でも5人は「戦士会」と称して定期的に食事に行く様子をSNSに投稿するなど、20年以上経っても仲がいい様子。当時のファンにとってもほほ笑ましいものである。

 特に女優初挑戦だった北川景子さんの頑張りは目を見張るもので、下着が見えるほどのアクションなど、同年に『Seventeen』のモデルとしてデビューを果たしティーンからの人気が絶頂だった北川さんに様々な年代からの注目が集まった。

 一部では北川さんの『セーラームーン』出演を「黒歴史」と評価する声もあるが、この作品がなければ北川さんがここまで女優として大成することもなかっただろう。北川さん本人も同作への出演をかつてインタビューで「人生で一番成長できたターニングポイント」だと語っている。

 またキャストに関していえば、ラスボスであるクイン・ベリルを務めた杉本彩さんも見事なキャスティングであった。

 一方で、原作ファンからすると残念に感じる改変もある。

 1つ目は、セーラームーンの相棒である黒ネコのルナがぬいぐるみであったこと。そもそも設定からして、ネコではなくぬいぐるみのキャラに変更されたのだ。画面はかなりシュールなものとなったが、このぬいぐるみに声をあてたのはアニメと同じ声優の潘恵子さん。大胆な改変は従来からのファンのイメージを変えないための工夫だったのかもしれない。

 もう1つ、多くのファンからツッコミを受けているのが原作とのキャラ設定の相違だ。特にセーラーヴィーナスに変身する愛野美奈子は作中では人気アイドルとして描かれており、なぜか病気で余命半年という状況で初登場。しかも最終決戦前に病死してしまう。これまでのどの派生作品にもなかった改変は多くの視聴者を困惑させた。

 一方で、同じ改変でも好評を集めたのが、セーラーマーキュリーが闇落ちして「ダークマーキュリー」になる展開だ。敵に洗脳されて悪に染まった姿は普段の水野亜美とは別人のように好戦的だったが、亜美の心情を細かに描いた点も含め、高い評価を得た。大胆な改変はどちらに転ぶかわからない。

 令和の世でもたびたび話題となる実写版『美少女戦士セーラームーン』。作品のイメージに左右されず初めから試聴してみれば、新たな『セーラームーン』の世界の魅力に気づくかもしれない。