『パタリロ!』や『お父さんは心配症』魅力満載だった“80年代少女漫画誌のギャグ漫画”4選の画像
『パタリロ!』第1巻 (白泉社文庫)

 80年代の少女漫画といえば、華麗なファッションに身を包んだ美しい少女が男性に恋をするピュアなラブストーリーが多かった。しかしこの時代には、後世にも残るインパクトの強い名作少女ギャグ漫画もたくさん生まれており、その世界観ならではの笑いをたくさん届けてくれていた。今回はそんな80年代に生まれた少女ギャグ漫画について紹介したい。

■秀逸なギャグのセンスだけじゃない…実はボーイズラブの先駆けだった!? 『パタリロ!』

 魔夜峰央さんによるギャグ漫画『パタリロ!』は、『花とゆめ』(白泉社)で1978年から連載が開始され、現在もアプリ『マンガPark』で連載が続く長寿作品である。

 本作は美しき島国「マリネラ王国」を舞台に、自称美少年の国王・パタリロが織りなすカオスな物語。彼の側近であるタマネギ部隊や英国の凄腕エージェントのバンコランなど、多彩なキャラクターが登場する。

『パタリロ!』の面白いポイントは、落語のようなボケが随所に見れるところだ。たとえば、パタリロとバンコランが出会う1巻のシーンでは、バンコランが「MI6」の証拠を見せると、パタリロは「手帳屋か」とクールにボケる。また、顔芸が得意なパタリロに対し、バンコランが「いちいち顔を変えるな!」とするどいツッコミをするのも、今のお笑いを見ているようで、40年も前の作品とは思えない。

 また、この作品はパタリロ以外のキャラクターは美青年が多く、ボーイズラブの要素もたびたび見られる。低身長でゴキブリ走法が得意なパタリロに対し、長身でロングヘアが美しい美男子キャラの対比もうまく、定番の美少女漫画が好きな読者からも受け入れられたギャグ漫画であった。

■80年代を代表する伝説少女ギャグ漫画『お父さんは心配症』

 80年代の少女ギャグ漫画といえば、この人の作品を思い出す人も多いだろう。1983年から少女漫画雑誌『りぼん』(集英社)に掲載された、岡田あーみんさんが手がけた『お父さんは心配症』は、まさにカオスなギャグ漫画だ。

 主人公・佐々木光太郎は一人娘の典子を溺愛しており、彼女のボーイフレンド・北野に過剰な攻撃をする。お見合い相手・安井千恵子の前では一転してシャイな様子を見せたりもするのだが、典子と北野の仲を引き裂こうとする”ガヤ”キャラクターとしてのハチャメチャ具合も凄まじい。

 本作は、現在のコンプライアンスでは通用しないギャグも多く、この時代でしか書けない笑いがある。たとえば、超能力者として現れた「時間をあやつる男」は、相手をサクッと刺して時間を止めてしまうなど、シュールすぎるギャグの数々はもはや伝説だ。

 りぼんの全盛期に登場した岡田さんの当時のキャッチフレーズは「少女漫画界に咲くドクダミの花」。面白い漫画とは美しさと恋愛だけではないことを、強烈なインパクトで残してくれた作品だ。

■平凡な日常はこんなにも面白いと教えてくれた『ちびまる子ちゃん』

 さくらももこさんの『ちびまる子ちゃん』は、1986年から少女漫画雑誌『りぼん』(集英社)に掲載されたギャグ漫画だ。その面白さから1990年からはアニメ化もされ、令和の今も放送が続く言わずと知れた国民的漫画である。

 本作は手描きイラスト風の画風で、当時の少女漫画界にインパクトを与えた。また80年代の少女漫画のキャラクターといえば、美しい少女とそのライバル、イケメン青年が主流であったが、本作はさくらさん自身を投影した小学校3年生のまる子とその家族、個性的な友だちがメインキャストである。

 夏休みの宿題が終わらないまる子のために、家族総出で絵日記を書くなど、読者にとってどこか懐かしく親しみやすいエピソードも人気の要因だろう。

 ちなみに『ちびまる子ちゃん』は一度完結しているものの、長年さくらさんのアシスタントを務めた小萩ぼたんさんによって、2022年に続編である18巻が販売されている。現在も放送されているアニメでは話題の芸人や俳優がゲスト声優として出演していることも多いので、ぜひチェックしてほしい。

■劇画チックな描写にユーモアを加え社会現象も引き起こした『動物のお医者さん』

『動物のお医者さん』は佐々木倫子さんによる、獣医学部で起こる笑いを描いた作品だ。1987年より『花とゆめ』(白泉社)で連載された本作は、繊細で緻密に描かれた動物たちや、劇画チックな登場人物が目を引く。

 しかし繊細な絵とは裏腹に、独特の世界観が展開される内容は非常に面白い。獣医学部に進学した主人公・西根公輝を迎えたのは、インパクト強めの教授や先輩たち。1話完結型のストーリーはサクッと読めて、周りで起きるドタバタを真顔で受け止める公輝が印象的だ。

 本作品は一概にギャグ漫画とは呼べないものの、動物をテーマに秀逸な笑いを巻き起こした名作だ。公輝の愛犬・チョビは漫画のなかでとても愛くるしく描かれており、90年代初頭には本作品の影響からシベリアン・ハスキーブームが起きている。

 動物のお医者さんは30年以上前の作品ながら、古びた印象がない。今読んでも獣医を目指すための手段が理解でき、学びながら笑える貴重な漫画である。

 

 ギャグ漫画と聞くと、やや少年漫画雑誌のイメージが強いが、実は少女漫画におけるギャグ漫画もかなり面白い。紹介してきたこれらの作品は、それぞれに独特な世界観があるうえ、読むことで日常のストレスを吹き飛ばしてくれる効果もある。今回紹介した作品を子どものころに読んだ人も、初めて読む人も、ぜひあらためて手に取って、その面白さを体感してほしい。

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