「ファミリー」の名がついたナムコのファミコン用スポーツシリーズは『プロ野球 ファミリースタジアム』が突出して有名ですが、そのほかのタイトルも名作ぞろいだったりします。そのひとつである『ファミリーテニス』は、ファミコンのテニスゲームでも傑作に挙げられるタイトル。その移植作として、今から35年前となる1988年8月11日に発売となったPCエンジン用ゲーム『プロテニス ワールドコート』は、『ファミリーテニス』のバージョンアップ作品であるとともに、“RPG”の革命児ともいえる怪作だったのです。
■対戦重視にパワーアップした『プロテニス ワールドコート』
任天堂の『テニス』に続くテニスゲームとして1987年12月11日に発売された『ファミリーテニス』。実在の選手をモチーフにしたデフォルメ気味のキャラクターは、『ファミスタ』を踏襲したものですが、ゲームとしてはかなりの本格派。トーナメントやワールド・ツアーなどひとりで遊べるモードも多いのですが、その真骨頂は対戦プレイ。キャラクターを変え、コートを変え、友人たちと何度も対戦を楽しんだ記憶が色濃く残ります。『ファミスタ』よりも一試合が短かったのも、それだけ遊びこんだ要因のひとつかもしれません。
その『ファミリーテニス』をバージョンアップしてPCエンジンに移植したのが『プロテニス ワールドコート』。
ワールド・ツアーなどは削除されてしまったものの、マルチタップを活用した最大4人によるダブルス対戦など、どちらかといえば対戦向けにシフト。使用できるキャラクターも16人から18人に増え、選手ごとに個性が際立ったプレイフィールが楽しめ、対戦の面白さもパワーアップ。さらに『ファミリーテニス』よりも鮮やかになったグラフィックスも、ゲームの楽しさを後押ししているようにも思え、より対戦が盛り上がったことはいうまでもありません。
■バトルはテニスの試合!? 笑いと冒険? に満ちたクエストモード
しかし、それ以上に衝撃と面白さがあったが「クエストモード」です。テニスが大好きな人々が集まるテニス王国・オハナハン。しかし、そこにテニスの魔王が現れ、会員制のテニスコートを作って国民を支配してしまった。その魔王を倒すため旅に出るというストーリーで、『ドラゴンクエストIII』(エニックス)をモチーフ……というかパロディにしたツッコミどころ満載のギャグ調RPGなのですが、これがまた新鮮で面白い。
というのも、戦闘はすべてテニスの試合。ザコ戦だろうがボス戦だろうが試合の結果が勝ち負けとなる前代未聞のシステム。一般的なRPGでは経験値稼ぎをしてレベルを上げ、お金を稼ぐ必要がありますが、本作はバトルに勝って得られるのはお金だけ。しかし、このお金がゲームを進めるうえで重要なポイントとなっているのです。
■テニス用具がすべてを決める? 装備品を買ってパワーアップ!
なぜお金が大事なのかというと、良いラケットやシューズといったテニス用具を買って装備することで、プレイヤーがどんどん強くなっていくからです。
初期装備のプレイヤーはホントに弱く、熟練プレイヤーでもザコ敵にも苦戦必至。つまり、クリアするにはキャ装備をそろえて強くしたうえで、プレイヤーの腕前を上げる必要があるのです。ちなみに最強装備がそろったクエストモードのキャラクターは、シングルやダブルスで使えるどの選手よりも強くなり、その結果、友人との対戦でどの選手を選んでも「パワーがない! 動きが遅い! なんでだ!?」とプレイに支障をきたすほどでした。
フィールドに出現する敵や町の住人との会話は、ちょっとおふざけ感があるものの、RPGとしてとても楽しく、また敵とエンカウントしたフィールドによってコートがグラスになったりクレイになったりというギミックもあったり、ボス戦では1セットマッチになったりとメリハリのある面白さがあり、普通のRPGよりも熱中したという人も多いのではないでしょうか。
■あらゆるものをRPG化できる! その可能性を見せてくれた『ワールドコート』
『ワールドコート』のテニスゲームとしての素晴らしさはいうまでもありませんが、本作のクエストモードは画期的なアイデアでした。RPGといえば剣と魔法のファンタジーが定番だったこの時代に「どんなジャンルでもRPGにできる」という発想を提示したことが何よりすごいことだといまでも思います。
この後、同じくPCエンジンで発売された『ファイナルラップツイン』には、ミニ四駆ならぬチビ四駆で頂点をつかむクエストモードがあったり、超一流のアイドルを育てる『ラサール石井のチャイルズクエスト』など、一線を画したRPGが発売されています。その先駆けともいえる『ワールドコート』のクエストモード。ぜひ、プレイする機会がありましたら、その破天荒な発想のRPGを楽しんでみてください。