日本各地の伝承や怪談などを、市原悦子さんと常田富士男さんのナレーションとアフレコでアニメ化した『まんが日本昔ばなし』。昭和50年にはじまった当番組は、ほっこりするような感動エピソードや、背筋がゾクっとするような怖い話まで幅広い“昔ばなし”を楽しむことができ、子どもたちに愛されていた番組だ。
そんな『まんが日本昔ばなし』に登場するエピソードのなかには、実在する場所がモデルとなっているものもある。そこで今回は、“聖地巡り”ができるエピソードを集めてご紹介しよう。
■『耳なし芳一』:赤間神宮・芳一堂(山口県下関市)
昔から広く知られている怪談『耳なし芳一』。
平家物語の弾き語りが得意な琵琶法師・芳一は、平家の亡霊に取り憑かれてしまう。寺の和尚が芳一の身体中に般若心経を書いて亡霊から彼を守ろうとするのだが、和尚は芳一の耳にだけお経を書くのを忘れてしまった。
お経が書かれている部分は亡霊には見えないのだが、何も書かれていない芳一の耳は亡霊に見つかってしまい、彼は耳を亡霊にもぎ取られてしまった……という恐ろしいエピソードである。
この芳一という琵琶法師は、山口県下関市にある阿弥陀寺に住んでいたと言われている。現在、赤間神宮となっているこの場所には、芳一を祀った「芳一堂」が建てられている。
実際に芳一という琵琶法師がいたのかは定かではないが、彼の名前は琵琶法師としては抜群の知名度を誇っているのも間違いない。そんな芳一の木像を見ることができる「芳一堂」、昔ばなしをあらためて思い出しながら見に行ってみてはいかがだろうか。
■『三年寝太郎』:寝太郎之像(山口県山陽小野田市)
古くから民話として親しまれてきた『三年寝太郎』。
三年も寝続けており“寝太郎”と呼ばれる怠け者の男が突然起き出したかと思いきや、山の上から大岩を落として川の流れを変え、日照りで水が枯れてしまった村の田んぼに水を引いて救ったという昔ばなしだ。
この寝太郎の物語は山口県山陽小野田市に伝わる話で、湿地帯だったといわれる厚狭の千町ヶ原が資源豊かな水田となったことを“寝太郎”という人物の偉業として言い伝えたものだという。ちなみに、この話にはいくつかバージョンがあるようで、全国各地でさまざまなエピソードが残されている。
寝太郎という人物がまるで実在していたかのように伝承されており、彼への感謝の気持ちから「寝太郎荒神社」や「寝太郎之像」などを作って彼を祀り、人々は今でも大切にこの昔ばなしを語り継いでいる。
■『養老の滝』:養老神社・菊水泉(岐阜県養老郡養老町)
『養老の滝』は、病で寝たきりの父親のために働く親孝行な息子が、偶然山奥で見つけた滝の水を父親に飲ませたところ、みるみるうちに元気になったという物語だ。
この物語に登場する滝として言い伝えられているのが、岐阜県養老郡養老町にある「養老の滝」だ。養老町には「孝子物語」という伝説があり、これが『養老の滝』のモデルとなっているようだ。
伝説では滝の水が酒に変わって父親が元気になったとされているが、実際にはこの水は酒ではなく「菊水泉」と呼ばれ“名水百選”にも選ばれている由緒正しき名水として親しまれている。
“飲めば若返る”なんて伝説も残されている名水・菊水泉。水を汲んで持ち帰ることもできるようなので、ぜひ近くに行った際には立ち寄ってみていただきたい。
■『海に沈んだ鬼』:双名島(高知県高岡郡中土佐町)
心優しい鬼が村の人々を救ったという『海に沈んだ鬼』。この話では、高知県高岡郡中土佐町にある「双名島」に伝わる伝説が描かれている。
平和に暮らしていた鬼の親子。ある日、荒れた海で家族を波にさらわれてしまったため、どうにか海が静まってほしいと祈る老人と孫に出会う。
しかし、それから数日後、村に大きな嵐がやってきた。鬼は2人のことが気になり、金棒に大きな岩を突き刺して村へと向かった。
荒れ狂う海に身を投じ、大きな岩で村を守ろうとする鬼。しかしやがて鬼の体は海へと沈んでしまうのだった……。鬼のおかげで村への被害はなくなったのだが、大鬼が沈んでしまったことを悲しんだ子鬼は泣き続け、ついには小さな岩になってしまったという。
こうして鬼が金棒を刺して持ってきたという岩は「観音島」と「弁天島」と呼ばれ、実際に金棒を刺したかのような大きな穴も見ることができるそうだ。そして、悲しくも岩になってしまった小鬼だという「烏帽子岩」も、この2つの島の間でそっと寄り添うように姿を見せている。
実在する場所をモデルにしたこれらの昔ばなしは、実際に現地へ足を運び伝承に触れることができる貴重なエピソードとなっている。実際に滝の水を飲むことができる「養老の滝」をはじめ、筆者もぜひ行ってみたいところばかりだった。
『まんが日本昔ばなし』に登場する場所を“聖地巡り”するのもまた、新しい旅の楽しみ方なのかもしれない。