漫画家にはペンネームで活動している人が多い。生み出した作品とともに、長く使う名前ゆえにこだわった名づけをする人が多いことは想像に難くないが、中には他の人とは全く違った面白い由来を持つ人も多い。
例えば、2023年4月度のアニメ『【推しの子】』が大ヒットした同作品原作者の赤坂アカ氏は、母音がすべてaで「あ・か・さ」のみを使った名前。これはスマートフォンでフリック入力がしやすいように名づけたペンネームだという。
このほかにも変わったペンネームを持つ漫画家たちを紹介したい。
まずは現在も『週刊プレイボーイ』で連載中のプロレス漫画『キン肉マン』を手がける漫画ユニット「ゆでたまご」。ゆでたまごは、小学4年生の時に出会った原作担当の嶋田隆司氏と作画担当の中井義則氏による漫画ユニット。
「ゆでたまご」とは相当変わったペンネームだが、その名づけの由来は「ペンネームを考えている際に、嶋田氏がおならをしたらゆで卵のような臭いがしたため」という中井説と、「名前を決めるときに食べていたものがゆで卵だったため」という嶋田説がある。なお、2人とも記憶が曖昧でどちらが正しいのかは不明だそうだが、近年は嶋田氏もオナラ説のほうを正しいとしているようだ。
続いては、2022年に『チ。ー地球の運動についてー』が第26回手塚治虫文化賞マンガ大賞を受賞した魚豊(うおと)氏。この変わった名前は、初めて食べた鱧(はも)がおいしくて、鱧という漢字を「魚」「豊」に分けたのだとインタビューで語っている。名前にするほど鱧が好きなのだと考えると、知的な作品を描く魚豊氏にも少し親近感が湧く。
好きなものからペンネームを拝借する漫画家はほかにもいる。『ハチワンダイバー』などで知られる柴田ヨクサル氏の「ヨクサル」という聞き慣れない名前は、『ムーミン』シリーズの『ムーミンパパの思い出』に登場する、ムーミンパパの冒険仲間でありスナフキンの父親であるヨクサルの名前からとったのだという。
スナフキンに父親がいたことすら知らなかったという人も多そうだ。ヨクサルはいわゆるレアキャラで、スナフキンのような帽子をかぶって黒い鼻を持つ鋭い目つきが印象的なキャラ。スナフキン以上の自由人で、ルールや規則などに縛られることを嫌い、立ち入り禁止の立て看板がある場所にわざわざ入って昼寝するという一面もある。なお、ヨクサルという名前はスウェーデン系フィンランド人の方言で「ふざける」という意味があるようだ。
『ハチミツとクローバー』『3月のライオン』など数々のヒット作を生み出してきた羽海野チカ(うみのちか)氏のペンネームは、自身の読み切り作品『海の近くの遊園地』からとられたものである。2014年には自身のSNSでもともと遊園地が好きだったことを語っており、公式ブログのタイトルも「海の近くの遊園地」。作中にもたびたび遊園地がキーとなるエピソードが描かれている。
『エア・ギア』や西尾維新氏の小説『化物語』のコミカライズ連載で知られる大暮維人(おおぐれいと)氏のペンネームの由来はダジャレ。ローマ字表記では「Oh!great」となっており、わかりやすい褒め言葉となっている。
SNSでも「大暮維人」のアカウント名の後ろに「Oh!great」と添えられている。自分でつけるにはなかなか勇気と覚悟がいりそうなペンネームだ。
思いを込めたペンネームの由来にはどれも納得するが、漫画家の中にはペンネームを途中で変更する人も少なからずいる。『ONE PIECE』の尾田栄一郎氏(月火水木金土/つきひみずきこんどう)や『こちら葛飾区亀有公園前派出所』の秋本治氏(山止 たつひこ/やまどめたつひこ)などがそうだ。長く使えるわかりやすい名前をつけることが肝要だろう。