松本零士さんといえば数々のSF作品を世に送り出した漫画界の巨匠だが、なかでも『銀河鉄道999』はいまだ多くのファンの心を掴み続ける名作である。主人公・星野鉄郎とメーテルらが銀河鉄道に乗り数々の“星”を訪れていくのだが、なかには実に奇怪な特徴を持つとんでもない星も登場する。不思議だけどできれば住みたくない、個性的な“停車駅”の数々を見ていこう。
■格差を決めるのは生まれ持った“光”…「真理子の螢」
社会の“格差”の問題は、我々が生きる現実世界でもたびたび議論となる根深いものだが、『銀河鉄道999』にはあまりにも意外なもので格差を設けられる、奇妙な惑星が登場した。
「螢の街」というエピソードのなかで、鉄郎たちは「真理子の螢」という停車駅に降り立つ。高層ビルなどが立ち並ぶ近代的な姿に圧倒される鉄郎だったが、メーテルからこの星には非常に激しい貧富の差があるということを告げられる。
鉄郎がその格差の理由に気付いたのは、惑星で暮らすフライヤという女性と出会ったことがきっかけだった。突如起こった停電によって室内が真っ暗になってしまうと、なんとフライヤの肉体のところどころが“蛍”のように輝きだしたのである。
実はこの惑星の人間は生まれながらにして肉体のどこかが発光するという奇妙な特徴を持っており、光る部位や光り方によって格差が決められてしまうというのだ。
普段、明るい場所で暮らしているぶんには普通の人間と同様なのだが、暗い場所に行くと自然に肉体が発光し、それぞれの“個性”があらわになってしまう。
鉄郎らが出会ったフライヤは肉体のところどころが光っていたのだが、これは“ブチ”と呼ばれるもっとも醜い光り方で、このせいもあって彼女はまともな仕事を与えられず、迫害されて生きてきたのである。
綺麗な光り方ができない人間は路上や橋の下などでホームレス同然の暮らしをする一方、全身が光る富裕層は満腹で食べられなくなった食事を躊躇なく捨ててしまうなど、鉄郎らの目から見てもその格差は歴然だった。
この酷い有様に、鉄郎も「こんな星なんか一度ムチャクチャになって ほろびてからやりなおせばいいんだ!!」と、憤りをあらわにしている。
蛍のような光……と聞くとどこか幻想的な響きだが、生まれもったなにかで人間の生き様が決められるという、なんとも残酷な惑星だった。
■ヒートアップもクールダウンも極端すぎる?「怒髪帝国」
普段は喧嘩ばかりしているが、なんだかんだで分かり合える関係を“喧嘩するほど仲がいい”と言ったりするものだが、『銀河鉄道999』の作中にはそんなことわざを体現するような、なんとも極端な惑星が登場する。
旅の途中、鉄郎たちは「怒髪帝国」なる停車駅に辿り着くのだが、まず目を引くのはその惑星の形だ。惑星全体がカンカンに怒ったように気流を立ちのぼらせており、見ているだけでただならぬ空気が伝わってくる。
その見た目に反さず、この星の住人は非常に怒りっぽいという特徴を持っていた。ほんの些細なことでもすぐさま怒り、殴り合いにまで発展してしまうのである。
銀河鉄道の車掌もこの星のことを「タンコブが四つや五つできる」と恐れており、銀河鉄道に危害が及ばないよう、あえて地上には停車しないようにしているほど。暴力が絶えない野蛮な星……に見えるのだが、実は喧嘩したあとはすぐに仲直りするなど、なんとも極端な人間ばかりなのである。
このため厄介事こそ多いのだが、それでいて長く尾を引くような事件はないという、奇妙な環境で人々は暮らし続けているのだ。
恨みつらみを抱かないという意味では後腐れないのだが、そもそも普段生活していくうえでは、喧嘩しないに越したことはない。熱しやすく、そして冷めやすい、なんとも極端な凶暴さを持った惑星である。