冨樫義博氏による『HUNTER×HUNTER』には、数多くの強い敵キャラが登場する。その中でも「キメラ=アント編」のピトーは印象的。カイト戦は戦闘描写こそ少なかったものの、その結末としてカイトの首を手にする姿は、“読者が絶望を感じたシーン”の代表格ではないだろうか。
そこで今回は、ピトーvsカイト戦のように絶望を感じた、『HUNTER×HUNTER』の敵キャラの「強」表現3選を紹介する。
■爆弾魔ゲンスルー
まず、爆弾魔「ボマー」ことゲンスルーの残虐な爆弾能力を紹介する。ご存知、ゲンスルーは「グリードアイランド編」のラスボス的存在だ。初登場は、ゴンたち新規プレイヤーを勧誘する一大勢力「ハメ組」の一員としてである。このときはあまり存在感がなく、アゴが長い説明役くらいにしか思っていなかった。しかし、15巻No. 142「爆弾魔(ボマー)」の回でゲンスルーは、ハメ組のゲームクリアが見えた頃合いを見計らい、「ボマー」としての本性を表す。
ハメ組全員の前で「オレは『爆弾魔(ボマー)』だ」といきなりの告白をしたボマー。続けて自身の能力のひとつ「命の音(カウントダウン)」について説明し始めるが、これによって能力の発動条件が満たされてしまった。このゲンスルーの予期せぬ言動には、ハメ組同様、困惑した読者も多かったのではないだろうか。
彼はその後、もう1つの念能力「一握りの火薬(リトルフラワー)」で、ハメ組の実力者ジスパー(ジスパ)を返り討ちにし、交渉しようとしたプーハットも問答無用で吹き飛ばした。最終的には「命の音」の「解除(リリース)」で、除念に成功していたアベンガネを除いたハメ組全員を一網打尽に吹き飛ばしている。まさにやりたい放題だ……。
ここで注目したいのは、爆弾という激しい念能力を操りながら、ゲンスルーが終始憎たらしいほど冷静であったこと。この後、ゴンとキルアたちの前に立ちふさがる厄介な敵になることを予感させた。
ボマーの能力は触れたものを爆発させるエグい攻撃であるのと同時に、相手に心理的絶望を与えるものでもあった。
■冷静に怒り狂うユピー
次に紹介するのは「キメラ=アント編」で登場したモントゥトゥユピー(通称ユピー)だ。ユピーはネフェルピトーやシャウアプフ同様、王直属護衛軍の1人。彼らと違うのは、ユピーが魔獣ベースのキメラ=アントであること。ゆえに序盤はシンプルな力で本能のまま戦う、まさにパワーに全振りしたようなキャラだった。怒ることによって体とオーラを膨張させ、それを一気にぶっ放す。これで周りは跡形もなく吹き飛ばされるので、十分恐ろしい能力なのだが、王の護衛としてはあまりにも大雑把な気もする。
ユピー自身もこのことに気づいていたのか、キメラ=アント討伐隊と対決しながら、自分の強大な能力を王のために有効に使う方法を模索し始める。その方法の1つが「冷静に平常に怒ること」。まずはコントロールしながら怒り、相手からの攻撃を誘う。そして敵がエサにかかった瞬間、抑えていた怒りを対象に集中させるというものだ。
26巻No. 280「直撃」にて、ナックルが攻撃しようと飛び込んだ瞬間、ユピーの身体の膨張が途中で止まり、みるみるうちに萎んでいく姿には悪寒が走った。そして次の瞬間放たれた強大なカウンターパンチは、まさに絶望でしかない。直後キルアの「落雷(ナルカミ)」のおかげで、ナックルはなんとか助かったが……。
おそらくユピーは、この日が誕生してから初めての本格的な戦闘の場だったのではないだろうか?そう思うと恐ろしい成長速度である。
ユピーはその後さらなる覚醒を遂げ、戦った相手モラウとナックルに一定のリスペクトをしめし見逃してもいた。そこでもよりいっそう「強」キャラ感を漂わせていたように思う。