■掴みどころのない日本軍第七師団の中尉『ゴールデンカムイ』鶴見篤四郎
2014年より『週刊ヤングジャンプ』(集英社)にて連載された野田サトルさんの『ゴールデンカムイ』は、アイヌが隠した金塊を巡り、登場人物たちが戦いと策略を張り巡らせるサバイバルバトル漫画である。
さまざまな人物・組織が金塊を求めて暗躍するなか、本作の最大の敵ともいえる存在が日本軍第七師団を率いる“鶴見中尉”こと鶴見篤四郎である。
彼は、軍人でありながらどこか飄々とした性格で掴みどころがなく、それでいて唐突にキレることで他者を躊躇なく傷付けるなど、光と闇が色濃く内在したキャラクターだ。
そんな鶴見中尉だが、作中を通して琺瑯(ホーロー)製の大きな額当てを身につけている。
実はかつて「奉天会戦」のなかで彼は額に砲弾の破片を受けてしまい、頭蓋骨の前頭部と“大脳前頭葉”の一部を失う大怪我を負ってしまう。以来、欠けてしまった頭蓋骨を補うために常に額当てをつけているのだが、つまるところその下には大怪我の傷跡がそのまま残っているのだ。
ゆえに、今もなお感情が昂ると傷口から脳漿……本人が言う所の“変な汁”が漏れ出してしまう。ギャグシーンとして描かれるぶんにはまだ良いのだが、シリアスな局面でときには微笑みながらこの変な汁を垂れ流す彼の姿は、部下が引いてしまうほど不気味極まりない。
強烈な性格の人物ではあるが、それゆえに特殊なカリスマを持ち合わせており、軍の部下や協力者からは狂信的な支持を得ている。
組織のコネクションを駆使し、手練手管で誰かを追い詰めていく姿はまさに死神。数々の個性的な変人、奇人が登場する本作において、まさに最大の敵にふさわしいアクの強さを見せつけたキャラクターだ。
普段、なかなか目にすることのない脳が剥き出しになった姿は、大きなインパクトを読者や視聴者に与えてくれる。どこかホラーテイストな外見ではあるが、一方でキャラクターの性質や過去のエピソードに理由を持たせていたりと、意外な設定背景の数々も実に興味深い点である。