■強さと優しさを兼ね備えたマリーダがまわりに与えた影響
マリーダは強さと優しさを兼ね備えた女性として、作中でも多くの人物に影響を与えた。特に、養父ジンネマンに与えた影響を見てみよう。
マリーダとジンネマンの絆は、本作を語るうえでは欠かせない重要な要素のひとつ。ジンネマンに引き取られたプルトゥエルブは「マリーダ」の名前をもらう。これは、作中では故人となっていたジンネマンの実娘「マリィ」から取られており、この時点で絆の強さがうかがえる。
お互いを想う心は軍人の主従関係を超え、実の親子のように揺るぎないものだった。特に印象に残っているのは、やはり最終決戦前のシーンだ。マリーダは初めてジンネマンの命令に背き、「お父さん……わがままを、許してくれますか……?」と自分の意志をアピール。驚いたジンネマンは涙を流しながら「赦す」と返した。そもそも強化人間は、マスターである人間の命令に背けないように調整されている。つまり、マスターと強化人間の関係性を、親子の絆で打ち破った瞬間だ。
また、残念ながらマリーダは最終決戦時に死亡してしまう。その際、彼女の思念は親しい人々を駆け巡ってメッセージを残していくのだが、ジンネマンに残したメッセージは涙なしでは見られない。「あなたは私の光。もう一度、私を生んでくれた光でした。ありがとう、お父さん」というメッセージを残し、ジンネマンの前から彼女の思念は消えてしまう。このメッセージは、本作の序盤で彼女がバナージに言った「光がなければ人は生きていけない」というセリフと対になるもの。彼女にとって、ジンネマンがどれほど大事な存在だったのかがわかる名ゼリフだ。
マリーダ・クルスは作中でもトップクラスの人気を誇るばかりか、『ガンダム』シリーズ全体の「好きな女性キャラ」でも上位に定着することが多い人気キャラクター。その魅力の根底には辛い過去がある。しかし、その辛い過去を乗り越えるほどのジンネマンとの強い絆こそが、彼女を魅力的な女性に成長させたのだろう。
戦争を生き延びることはできなかったが、その人生は多くの人に影響を与え、戦争終結の一手となったことに疑う余地はない。ただ、できれば生き残ってもらい、心からの笑顔を見てみたかったと思う。