■範馬勇次郎が息子・刃牙に振る舞った“エア夜食”
次は板垣恵介氏による『グラップラー刃牙グラップラー刃牙』に登場する範馬勇次郎だ。勇次郎は“地上最強の生物”という異名を持ち、世界中の格闘家から目標にされる存在である。そんな格闘家たちを相手に勇次郎は、一切手加減することはなく、自分が敵だとみなした相手には容赦することがない。
そんな勇次郎の息子である刃牙は、敢えて歯向かって親子喧嘩を仕掛けた。刃牙は単純な親子喧嘩と話していたが、勇次郎と戦うということがただの親子喧嘩で済むはずもない。
勇次郎と刃牙の戦いは力と力の応酬による展開になり、刃牙は動けなくなってしまう。そこで決着かと思われたが、刃牙なりに必死に抵抗を試みる。それを見た勇次郎は、おもむろに料理を作る素振りを見せ始める……。作っているのは味噌汁だというのが、豆腐を切り、鍋をかき混ぜ、ねぎを刻むアクションから伝わってくる。そして、親子でまさかの「エア夜食」の食卓に向かい合う。
エアでではあるが、勇次郎が刃牙のために料理を振る舞ったのだ。あまりにもシュールな絵面だが、このシーンには不思議な納得感があった。それは、勇次郎が刃牙の強さを認めたことを表わしているともいえ、他の相手であれば勇次郎が絶対に見せない一面だったからだろう。
■死を覚悟したベジータがトランクスを最後に抱擁
最後は鳥山明氏の『ドラゴンボール』に登場するベジータだ。ベジータはサイヤ人として地球に攻め入ると、圧倒的な力で悟空たちを追い詰めていく。自分こそ最強と思っていて、強くなるためならどんな手でも使って戦闘力を上げていった。
性格は冷酷非情で、ナメック星ではドラゴンボールを奪うために村人を皆殺しにしている。その他にも負傷したナッパを「うごけないサイヤ人など必要ない!!!」と切り捨て、命乞いをするドドリアやザーボンも容赦なく殺してしまった。
そんなベジータはフリーザとの激闘の末に地球で生活することになるが、性格はまるで変わらない。自分よりも強い存在は許せず、敵とみなした者は殺す気持ちで向かっていく。
そんなベジータが見せた優しさが、魔人ブウとの戦いの最後である。復活したブウの強さは桁違いで、誰も勝てないと分かった時にベジータは覚悟を決めた。そして「ブルマを…ママを大切にしろよ……」と話し、赤ん坊の頃から一度も抱いたことのなかったトランクスを初めて抱きしめると、ピッコロに託して避難させ、ブウを倒すために自爆する。
それまでにベジータが見せてきた数々の言動からは想像がつかない優しい一面だったと言えるだろう。
絶対的強者であるキャラクターがたまに見せる優しさは、それまでの行いとのギャップがあればあるほど印象は強くなり、読者の心に刺さる。今回紹介した3人のように、特に肉親に向けられる優しさは、万人にわかりやすく伝わり共感できるポイントになる。誰もが持っている感情を、意外なキャラクターがここぞというタイミングで見せてくれるからこそ、それが感動を呼ぶのだと言えるだろう。