■『SLAM DUNK』山王工業戦…湘北1点リードで残り24秒!
井上雄彦氏による『SLAM DUNK』(集英社)でも随一の名勝負といえば、やはりインターハイ2回戦での山王工業戦だろう。昨年12月に公開され国内での観客動員数が1000万人を突破し150億円に迫る興行収入を記録した大ヒット映画『THE FIRST SLAM DUNK』でも描かれた名勝負だ。
その中でも湘北1点リードのまま残り24秒となった場面では、読者の誰もが試合終了までの時間を永遠に感じたはずだ。
山王工業は高校バスケットボール界で頂点に立ち、湘北から見ると雲の上のような存在だ。湘北にとってはインターハイの2回戦にして、ここで全てを出しきらないと負けるという相手である。そんな気持ちで挑んだ湘北は、途中で離されながらも食らいついて徐々に点差を詰め、残り24秒でついに逆転に成功した。
筆者も当時「まさか……山王に勝てるのか?」と胸を熱くしたものである。しかし、バスケの試合の中での「24秒」は、決して少ない時間ではない。うまく運べば2回はオフェンス機会のある時間だ。しかも点差はたったの1点。強豪の山王ならあっさりひっくり返してしまう可能性も高い。それでもディフェンスに全力を尽くして、シュートを打たせなければ勝てるかも……そう思ってしまうからこそ、残り時間が早く経ってほしいと願ったのだ。
しかし、そこから山王のエースの沢北にシュートを許して再逆転されてしまう。この時点で残り時間は9.4秒。息の詰まる展開の連続に読者としても緊張と疲労がピークに達していく。そして、ここからさらなるドラマが待っているのだ……。
試合展開が早く、わずかな時間でも逆転劇が起こるバスケの醍醐味が詰まった山王戦終盤の攻防は、いまあらためて読み返しても興奮を禁じ得ない。
漫画やアニメでは緊迫した状況であるがゆえに、一瞬が永遠にも思えるほど時間が流れるのが遅く感じてしまう場面がある。それは、読者や視聴者がキャラクターと同じ目線になって感情移入している証でもあり、それほど見せ方が上手いとも言える。緊迫した展開から脱出できたとき、思わず大きく息を吐き出してしまうような経験をしたことがある人も多いのではないだろうか。そうした場面を読んだり観たりしているとき、私たちは確かに作中のキャラクターと同じ時間を生きているのだ。