物語のなかで、主人公は常に困難に立ち向かい、それを乗り越えて成長していくものだ。そうした成長に欠かせない“師匠キャラ”は主人公にとって、成長を促してくれる存在であると同時にともに戦う仲間でもある。師匠キャラの“自分が来たからにはもう大丈夫だ”感は絶大だ。
今回はそんな師匠キャラたちに注目し、読者に強烈な印象を残した弟子との“愛あるエピソード”を紹介したい。
■弟子の運命のために己の命を懸けた『鬼滅の刃』鱗滝左近次
まずは吾峠呼世晴氏の『鬼滅の刃』から、炭治郎に鬼狩りのいろはと呼吸の基礎を教えた鱗滝左近次。彼は天狗のお面をつけており表情が読めないうえ、痛烈な言葉を投げかける厳格さを持っている。
問いに即答できなかった炭治郎をすぐさま平手打ちし、「判断が遅い」と叱責するシーンがあまりにも有名なため、“不気味で怖い人”という第一印象を抱いた人も多いだろう。しかし物語が進むにつれ、その厳しさは愛ゆえのものだとわかっていく。
そもそも鱗滝が炭治郎を育成したのは、弟子である冨岡義勇の頼みに応えてだった。しかし鬼の妹を引き連れた少年など、鬼殺隊からしてありえない存在。普通の思考回路なら考えるまでもなく拒絶するだろう。それでも炭治郎たちを受け入れたところに、彼の心根の優しさを見て取ることができる。
また炭治郎の修行中、鱗滝は寝ている禰󠄀豆子に“人間は家族”、“鬼は敵”と暗示をかけ、兄妹の運命が少しでも良い方向に行くように考えてくれていた。そのおかげもあったのか、禰󠄀豆子は目にした人間を自分の家族だと認識し、守ろうとするように。ちなみにこの暗示は、ファンのあいだで“最強すぎる人類皆家族暗示”などと評価され、鱗滝を『鬼滅の刃』MVPに推す人もいるようだ。
炭治郎と禰󠄀豆子の処遇を巡って揉めに揉めた柱合会議前の裁判では、“もし禰󠄀豆子が人を襲った場合、自身も富岡義勇も腹を切って責任を取る”という内容の鱗滝の手紙が読まれ、多くのファンの涙を誘った。残酷な運命に抗う弟子たちの未来を切り開くために、彼もまた命をかけて戦っていたのだ。
■弟子との日々で成長を遂げた『ドラゴンボール』ピッコロ
続いては、鳥山明氏による『ドラゴンボール』のピッコロについて紹介しよう。彼は主人公・孫悟空のライバルだったが、わけあって「サイヤ人編」でその息子・悟飯の師匠となる。
強敵・ラディッツとの戦いで、敵対関係にありながら共闘したピッコロと悟空。最終的に悟空の命と引き換えにラディッツを倒したものの、1年後にはさらに強力なサイヤ人たちが地球に襲来することが明らかになる。
そこでピッコロは、ラディッツ戦で戦いの才能の片鱗を見せた悟飯に目をつけ、彼を鍛えることにした。文面だけで見ると至って普通の展開に見えるかもしれない。しかし実際に行われたのはただの誘拐である……。
今でこそ“悟空の友人”として名前が挙がるピッコロだが、連載当初はそんな印象はまったくなく、がっつり敵サイドのキャラクターだった。そんな相手に拉致された悟飯がどんな目に遭うかは想像に難くなく、我々読者は母親であるチチにいたく同情したものだ。修行中、悟飯に向かって「りっぱな魔族にしてやる…!」などと豪語するピッコロを見て、“悟飯はこのままで大丈夫なのか?”と不安になったのは筆者だけではないだろう。
ところが、ピッコロは一緒に修行をするうちに悟飯の優しさや真面目さ、素直さといった美点に感化されていく。そしてサイヤ人戦の最後では、ナッパに攻撃された悟飯を身を挺してかばったのである。このときの、“オレとまともにしゃべってくれたのはおまえだけだった”、“きさまといた数か月わるくなかったぜ”というセリフは、見る者の心を揺さぶった。
世界征服を企んでいた大魔王ピッコロが、初めて誰かを守るために命をかけて戦った瞬間である。弟子とともに師匠もまた成長していくのだ。