■『ベルセルク』ガッツ
三浦建太郎さんによる『ベルセルク』(白泉社)は、重厚かつ壮大な展開で絶大な人気を誇るダーク・ファンタジーだ。2021年5月に三浦さんが突然死去したことで多くのファンが悲嘆に暮れたが、親友である森恒二さんの監修のもと、三浦さんのアシスタントたちが所属するスタジオ我画の作画により、2022年6月から連載が再開されている。
そんな『ベルセルク』の主人公のガッツも、かつては無骨な一匹狼然としていたが、物語が進むにつれて仲間たちとの交流を重ね、頼れる存在となっている。
トロールに連れ去られたキャスカとファルネーゼを救出する際に、トロールの巣窟に1人で残って足止めし、仲間たちを先に逃がそうとするガッツに、シールケは無茶だと止めようとする。しかし、ガッツはただ「任せろ」と告げ、シールケに二の句を継がせない。トロールと聞くと、よくゲームなどに登場する姿からは「そんなに強くなさそう」と思ってしまうかもしれないが、『ベルセルク』のトロールは体こそさほど大きくはないが凶暴、凶悪な上に数を笠に着て人間を襲う恐ろしい存在として描かれている。まさにその巣窟のまっただ中で、いかにガッツといえどもたった1人で勝てるのか? と読者としても心配になってしまった。
しかし、そんな緊迫した状況下でガッツはさらに、いつもキャスカの面倒を見てくれているファルネーゼに感謝を伝え、自らを手本として一人前の戦士を目指すイシドロには殿(しんがり)として皆を守れと、逆に「任せた」という言葉を掛けるのだ。ただ一方的に守るだけではなく、強い信頼に結ばれた関係が垣間見えて印象深いシーンだ。
今回紹介した以外にも、頼れるキャラクターが「任せろ」と口にするシーンは数多く存在する。絶対的な自信を表すこともあれば、仲間に対する自己犠牲を表すこともある。そのキャラクターの性格や実力、仲間との関係性など様々な要素によってもその意味合いは変わってくるだろうが、いずれの場合にあっても、仲間を思いやり責任を背負う、いわば生き様そのものが凝縮された言葉と言えるだろう。