■剣心VS比古清十郎

 和月伸宏氏による『るろうに剣心ー明治剣客浪漫譚ー』(集英社)にも、印象的な師弟関係が存在する。それが主人公・緋村剣心とその師である比古清十郎だ。清十郎は剣心の育ての親でもあるので、単なる師弟というよりも強い結びつきがある関係だ。しかし剣心は、飛天御剣流を極める前に清十郎の元を喧嘩別れのような形で飛び出してしまっていた。そのままもう二度と会うことはないかと思われたが、志々雄との戦いに向けて飛天御剣流の奥義習得を決意した剣心は清十郎に伝授を乞い、命がけの稽古をすることになる。

 清十郎は、剣術の腕はもちろんのこと、体格も小柄な剣心よりはるかに大きく別格の存在だが、命を賭した真剣勝負となったことで覚悟が決まった剣心の集中力は極限まで高まり、振るう太刀筋からも迷いが消える。そしてついに、清十郎の圧力に怯むことなく、それを上回る一撃を叩き込み、奥義「天翔龍閃」の習得に成功する。この瞬間には思わず「おお!」と歓声を上げてしまった。

 清十郎は仲違いをして袂を分かってしまっていた剣心をずっと気に掛けていたのだということが、過酷な修行を通して見ても伝わってくる。その証拠に清十郎は、十本刀が京都を強襲した際には、表に出ることを嫌がっていたにもかかわらず、率先して戦いに参加して剣心の仲間を守っている。作中最強とも言える強さを持つ師と、その不肖の弟子(清十郎いわく「バカ弟子」)との絆の強さを物語っている。

 師弟対決とひとことで言っても、そこには様々なドラマがある。師匠は弟子に自らを超えてほしいという願いがあり、弟子は目的のために師匠を超える必要がある。師匠と弟子、それぞれの想いが交錯する師弟対決には、敵味方の戦いとはひと味違ったバトル漫画の醍醐味があるのだ。

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