バトル漫画には必須と言えるシーンのひとつとして、自分の殻を破り今よりも強くなるための「修行シーン」がある。そして、それは切磋琢磨し合う仲間や、超えるべき師匠といった存在があってこそのものだ。特に師匠がいる場合は、成長の証を示す最後の試練として師弟対決が行われることも少なくない。その対決によって師匠が弟子に自分の持つ技の全てを託すこともある。いわゆる免許皆伝だ。
師匠超えを果たすことは、単にバトルが強くなったというだけでなく、精神的な成長という意味でも得られるものが大きいが、それだけに 一筋縄でいかないことが多い。今回は、弟子が師匠を越えていった、バトル漫画屈指の名シーンを紹介していきたい。
■キン肉マンVSプリンス・カメハメ
ゆでたまごによる『キン肉マン』(集英社)では、アメリカ遠征編でハワイを訪れたキン肉マンがプリンス・カメハメと対戦し、わずか7秒で敗北したことで、カメハメに弟子入りする。
「48の殺人技」を伝授されたキン肉マンは、カメハメから託された打倒ジェシー・メイビアの夢を果たし、レスラーとしてもひと皮むけることになる。夢の超人タッグ編ではキン肉マングレートとしてキン肉マンとタッグを組んだカメハメだったが、テリーマンを救うためにサンシャインの呪いのローラーに巻き込まれて命を落としてしまう。しかし、キン肉星王位争奪編ではオメガマンによって蘇らされ、キン肉マンの敵として戦うことになる。この展開には正直、「あのカメハメの戦いがまた見られるのか!」とワクワクしたものだ。
そこでカメハメは、かつてはキン肉マンに伝授しなかった「52の関節技」を解禁。キン肉マンは初めて見る技に戸惑いつつも、その技を返しながら吸収していくことになる。そして、これこそがカメハメの真の狙いでもあった。敵側に寝返ったと見せかけ、実はキン肉マンに教えていなかった52の関節技を、実戦を通じて伝授していたのだ。そして、キン肉マンが自分を超えて技を返すことに成功すると、自らの役目を終えたと安心し、今度こそ本当に消え去ることになった。
愛弟子であるキン肉マンのことを思い、託せなかった52の関節技を教えられたことで満足して涙を流すカメハメの姿は感動的だ。そしてまた、その気持ちに見事に応えたキン肉マンの純粋な師匠への敬慕の念にも胸を熱くさせられる。
■氷河VSカミュ
車田正美氏による『聖闘士星矢』(集英社)にも、感動の師弟対決シーンがある。それが十二宮編でのキグナス氷河と水瓶座(アクエリアス)のカミュとの戦いだ。氷河の師にあたるカミュは、黄金聖闘士として氷河の前に立ちふさがる。圧倒的な実力差によってカミュの必殺技「オーロラエクスキューション」を食らった氷河は「フリージングコフィン」で氷漬けにされてしまう。このまま終わってしまうのかと思われたが、氷河は復活を遂げるとカミュと再戦することになる。
攻撃を受けながら覚醒した氷河は、師であるカミュですら成し遂げられなかった絶対零度の攻撃を繰り出し、勝利する。
氷河は見事に師匠超えを果たしたが、実は、カミュは氷河に戦いを通じて自分を超えてほしいと願っていたのだ。完全に敵とみなしていたのであれば、最初の戦いで氷河を簡単に殺すこともできたはず。カミュがそれをしなかったのは氷河の復活を見越していたからだろう。そして実際に、限界を超えることで氷河はその潜在能力を存分に引き出すことができたのだ。カミュの氷河への愛が感じられる戦いだったと言えるだろう。