異例の主人公に、怪人サイドの物語…20年前の平成仮面ライダー『仮面ライダー555』がいかに革新性があったかの画像
『仮面ライダーファイズ パラダイス・リゲインド』(C)2024 石森プロ・バンダイ・東映ビデオ・東映 (C)石森プロ・東映

 2023年で放送から20周年を迎え、5月5日にテレビ本編の続編である完全新作『仮面ライダー555 20th パラダイス・リゲインド』の制作が発表された『仮面ライダー555』。

『仮面ライダークウガ』『仮面ライダーアギト』『仮面ライダー龍騎』に続いて放送された平成仮面ライダー第4作目となる同作は、半田健人さん演じる乾巧を主人公にした、一風変わった試みが多い作品だった。実際にどのような点がそれまでの仮面ライダーと違ったか、またどのような要素が後のシリーズに影響を与えたか、改めて同作の魅力を振り返ってみたい。

■模範的ヒーローとは言えない主人公「乾巧」

 ヒーローものの主人公といえば、正義感が強くお人よしというようなキャラクター像が思い浮かぶ。実際に『クウガ』の五代雄介も『アギト』の津上翔一も『龍騎』の城戸真司も、3人とも笑顔の爽やかな好青年だったが、巧は不愛想で思ったことを率直に言ってしまう、一見すると少し感じの悪いキャラクターだ。

 第1話では、巧がバイク旅中にバッグを取り違えたことから怪人・オルフェノクとの戦いに巻き込まれていく様子が描かれているが、彼が本格的に登場するのは物語開始から約16分が経過してからで、「乾巧」という名前が明かされるのも2話目のことだった。第1話では主要人物である木場勇治をメインに物語が進む演出で、こちらは爽やかな容姿の青年で、視聴者に彼を主人公と勘違いさせるミスリード的な狙いがあったようにも思われる。

 とはいえ、全体的にホラーテイストが強く不穏な空気の漂う『555』の世界では、乾のような独自の価値観を持つぶっきらぼうで無愛想な主人公が非常に似合っていた。ヒーローといえば自分を顧みず人助けをするというような行動を取ることが美徳とされるが、物語序盤での巧は、ヒロイン真理の「怪人に狙われているから助けてほしい」というお願いを無視する場面まであり、予定調和ではない主人公像が新鮮だった。

 しかし巧が前述のような行動を取るのは「自分が人を裏切ってしまうのが怖い」という理由からで、本当は人付き合いに対して臆病で不器用だということが分かる。物語が進むにつれて真理をはじめとする仲間との出会いによって、戦う理由や更には今まで自分にはなかった夢を見つけていく様子が描かれていく。

 このように、最初から完成された正義感を持ち合わせていないという点が当時としては革新的だったように思う。巧のようなタイプの主人公は後にも先にも仮面ライダーシリーズにはあまり登場せず、シリーズ内では唯一無二な主人公と言えるだろう。

 余談だが巧は交通ルール違反をしてしまい、仮面ライダーの必須アイテムであるバイクの免停を食らうという何よりも仮面ライダーにあるまじき描写もあり、そこも異端と言える。

■怪人側にも焦点を当てたストーリー

『555』では人間が死亡した際に、適正のある者だけが覚醒して怪人「オルフェノク」となる。それまでの仮面ライダーとは打って変わって、人間と怪人が別物ではなく地続きになっており、怪人サイドのドラマが描かれる点も革新的だった。

 たとえば、前述のように第1話冒頭から木場勇治(泉政行さん)というキャラクターがメインで登場するが、彼は事故で死亡し、オルフェノクとして覚醒してしまう怪人側の主人公とも言える存在。オルフェノクとして生き返った後は肉親や恋人から手酷い裏切りに遭い、絶望した結果、恋人をオルフェノクの力を使い殺してしまう。しかし、だからといって心までは怪人になり切れず、人間として生きようともがく。

 それまでの仮面ライダーは怪人は倒されるべき敵、仮面ライダーは絶対的正義という図式が根強かった。前作『仮面ライダー龍騎』でさえ怪人は倒されるべき敵という図式が崩れることはなかった。

『555』では怪人にもそれぞれの日常があるということが描かれるようになり、怪人であるオルフェノクにも視聴者が感情移入できるような作りとなっていた。

 こうした試みは以降も続き、第5作『仮面ライダー剣』 でも怪人側の苦悩や葛藤が描かれ、第7作『仮面ライダーカブト』でも人間に擬態した怪人をメインとしたエピソードを放送。後の仮面ライダーにも大きな影響を及ぼしている。

  1. 1
  2. 2
  3. 3