■人間を戒めるキツネたち
キツネにいたずらをした人間や、人を化かすキツネを止めようとした人間が返り討ちにあう例は多い。1989年放送の「峠のまご六」では、侍の「まげ」をとるのが得意な「まご六」というキツネが出てくる。
ある侍がまご六を打ち取ろうとまご六のいる峠にやってきて、キツネが化けたとわかっていながら茶店で様子を伺うのだが、そのうちに酒に酔ってしまう。
茶店の娘にすすめられて風呂に入るも遠くから大名行列の声が聞こえ、突然のことに裸のまま大慌てで着物と刀を探し回る侍だが、上司に見つかり斬りつけられてしまう。
侍がハッと気づくと周囲には何もなくなっており、自分の「まげ」が切り落とされている。彼もまた、他の侍同様にまご六に騙されたという話だ。
また1992年放送の「栗の木坂のきつね」では、いたずら心でキツネに大きな石を投げつけた若者が、その後、墓地から這い出てきた大勢の死人に追いかけられる。
高い木の上に追い詰められ、いよいよ万事休すと思われたとき、ハッと気づくと周囲は花畑で、全てはキツネが仕返しに幻覚を見せていたという話だ。
いずれも幻覚を見せられるというオチで、やはり昔話におけるキツネは、いたずら者や悪い人間を戒める存在として描かれることが多いようだ。
■恩を返す義理堅いキツネも
しかし、彼らが恩義を忘れない義理堅い存在として描かれることも多い。1978年放送の「キツネの恩返し」はお坊さんとキツネの心温まるふれあいの話。
いつもキツネに食事を分け与えていたお坊さんと次第に心を通わせていくキツネ。恩返しにしたいというキツネにお坊さんは「火事が起きないこと」「水が夏に冷たく冬に暖かいこと」を願うと、その地は水が夏に冷たく冬に暖かくなり、火事の頻度も減ったという話だ。
また1976年放送の「きつね女房」では、若者が倒れている娘を助けたことをきっかけに彼女と夫婦となるのだが、ある日彼女がキツネだという正体がばれ、一緒にいられなくなってしまう。
しかし正体がバレるきっかけとなった娘の植えた田んぼの苗は、年貢を免れ、その後たくさんの稲穂が実ったというオチだ。
また1977年の「キツネのお産」では、人に化けたキツネのお産を助けた医者がお礼に小判をもらう。
医者の前では人間の姿をしていたキツネだったが、数日後、子ギツネを連れた夫婦のキツネが彼にあいさつにくるというほっこりした話だ。
キツネが人に化けるという点は同じだが、これらはいずれも恩返し系のいい話で、キツネも根っからの心優しい人間にはいたずらをしないようだ。しかしそれらはすべて、人間の優しさあってこそ。昔話におけるキツネは、人の心を映す鏡なのかもしれない。