アニメ『まんが日本昔ばなし』は1975年から放送開始したテレビアニメ。日本各地に伝わる昔話をさまざまなアニメーターが映像化したもので、市原悦子さんと常田富士男さんの2人が何役もの声を使い分ける語りで、これまで多くの物語が紡がれてきた。
「鬼」に「山姥」に「天狗」などの他に『まんが日本昔ばなし』でとりわけ多いのが「キツネ」にまつわる話だ。日本の古くからの言い伝えや昔話には「キツネ」が出てくるものがとにかく多いが、人間を化かす悪い存在であることもあれば、神の使いであることや美しい女に化けて嫁入りすることもある。今回は、神秘的な存在であるキツネが登場する『まんが日本昔話』を紹介したい。
■「怖すぎる」キツネたち
まずは、1991年に放送され、「怖すぎる回」「トラウマ回」として今でも語り継がれている「三本枝のかみそり狐」という話。これは村はずれの「三本枝」という竹やぶに人を化かすキツネが住んでおり、村人がキツネを恐れる中で彦べえという若者だけが信じておらず、結果恐ろしい目にあってしまうというもの。
この話の中には彦べえがいろりの火に赤ん坊を投げ込んで焼死させたり、鬼の形相の婆さまが彦べえを追いかけてくるというシーンがある。
まるで怪談そのものの怖すぎるシーンだが、これらは全てキツネのしわざ。化かされた彦べえは朝、竹藪の中で目覚め、その髪の毛は全部むしりとられており、あまりの恐ろしさにその後見栄を張ったりしなくなったという話だ。
これにそっくりな話には1976年放送の「かみそり狐」があるが、こちらは絵のタッチが「三本枝のかみそり狐」のようには怖くない。全てキツネが化けていたというオチも全く一緒だが、絵のタッチが違うだけでこうも印象が異なるものなのかと驚かされる。
このほかにも、1979年の「さかな売りときつね」にも、人をたぶらかすキツネが登場する。こちらは魚を売って暮らしている若者がキツネに騙されるという話だ。
いつもキツネに干し魚を取られることに腹を立てた若者が、ある日偶然犯人のキツネを見つけ、そのしっぽを思いっきり踏んづける。
すると晴れていた空が急に曇って大雨が降り始める。若者は急いで雨宿りに民家を訪ねるのだが、実はその家主や登場する女の幽霊、家そのものは全てキツネが仕返しに見せた幻覚で、周囲の人間からすると若者は炎天下の中で1人で何かと闘っているようにしか見えなかったという話だ。
全ては幻覚だったが、腕を噛まれた痛みだけは本当だったというちょっと不気味なオチがついている。