少年漫画などで活躍するヒーローや救世主は、誰かがピンチのときにギリギリで駆けつけて助けてくれるのが、大体のお約束だ。しかし『北斗の拳』(原作・武論尊氏、作画・原哲夫氏)の主人公・ケンシロウは、ひと味違う。彼もまた”救世主”と呼ばれるものの、ギリギリ手遅れのところで駆けつけることが多く、いつも寸でのところで間に合わない。今回はそんな間に合わないシーンの数々から、印象的だったものを3つ紹介する。
■せめて乗り物があれば…
まずは、読者に人気の通称“ミスミのじいさん”回に登場するシーン。旅の途中、ケンシロウは暴徒に追われる老人を助ける。老人は、食糧をめぐる争いがこれ以上起きないようにと、村に植える種モミを持ち帰る途中だった。
老人を無事に村まで送り届けたものの、村を去るケンシロウと行き違いに、ジープで村に向かう暴徒たちの姿が……。急いで村に引き返すも、相手は車、こちらは徒歩。いくら走ったところで間に合うはずもなく、やっと村に到着したときにはすでに大量虐殺のさなかだった。そして例の老人は、ケンシロウの目の前で胸を貫かれる。「じいさん‼」と叫ぶケンシロウに、老人は“どうかこの種モミを実らせてほしい”と言い残して息絶えた。
このようにケンシロウは基本徒歩で旅をしているので、ジープやバイクを駆る暴徒には遅れをとりやすい。たまにバットが運転するジープに乗っていることもあるが、肝心なときほど徒歩だというのが、読者としてはやきもきするポイントの一つだろう。
■いろいろ間に合わなかったバットの村
続いて、バットの村に立ち寄ったときのこと。ケンシロウ一行が村に着いた夜、一人の少年が、世話になっている老婆のために隣村まで水を盗みに行く。事情を聞いたケンシロウは急いであとを追うが、そのころ少年は水の番人に見つかり、バイクで追い回されていた。
子どもが怖がりながら必死で逃げる姿は忍びなく、“早く助けに行って!”と多くの読者が思っただろうが、少年がボウガンで胸を射られても、ケンシロウはまだ現れない。そしてとどめを刺される直前にやっと登場し、「てめぇにそんな資格はねぇ!」と番人の頭をチョップでかち割った。少年はとどめこそ刺されずに済んだが、結局そのまま死んでしまう。
その後、ケンシロウが去った直後に村は暴徒に襲われる。銃声を聞いて走って戻るも、案の定間に合わず、老婆はすでに胸を刺されたあとで、おまけに暴徒には逃げられる……と、何から何まで間に合わないこと尽くしのエピソードだった。
のちにケンシロウは、いつになくじっくり丁寧なやり方で暴徒に制裁を加えた。すべてが後手に回って一番やきもきしていたのは、実は彼自身だったのかもしれない。