■ブラックな労働環境で人々を酷使した「コウケツ」
続いては、巨大な農場の主であるコウケツを紹介する。彼は甘い言葉で騙して連れてきた人々を、死ぬまで酷使するという悪行を繰り返してきた。「死体はきりきざんで畑にまきなさあい」といった発言からも、ここで働く人々は人間として扱われていなかったことがよくわかる。
またアミバほどではないが人体実験も行っており、あらゆる薬物を使って怪人“マイペット”を作り上げていた。「これからはここ(頭脳)の時代なんだよ」「食わせれば狼もブタになる!」など、その狡猾さや計算高さがうかがえるセリフも多い。
そんなコウケツの最期は、自身の策に溺れたみじめなものだった。ケンシロウに追い込まれた彼は、自分の体重以外の重さに反応し侵入者を串刺しにする仕組みの部屋に逃げ込む。しかしケンシロウを誘い込もうとするもうまくいかず、逆に自身の罠にはまって串刺しに……。「きさまにはドブネズミらしい最期こそふさわしい」というケンシロウの言葉通りの幕引きだった。
■犬至上主義だが犬には好かれなった「ガルフ」
最後は、拳王軍の一員であるガルフだ。“狗法眼ガルフ”という異名がある彼は、「子どもの命と犬の命 どう考えても犬の方が重い!!」や「この街では犬こそ法律!!」といったセリフからわかるように、すべてにおいて犬を優先する変わり者である。
人間の生死さえも犬に委ねるガルフは、犬を傷つけた人間を捕らえ、相棒的存在のブルドックのセキに「無罪か死刑か?」と訊ねたうえで死刑執行をすることを好む。といっても吠えたら即刻処刑とする無茶苦茶な解釈で、当然ながら犬が何を言っているのかはわかっていない……。
そんな彼も最期はケンシロウに敗れて死んでいった。北斗神拳を喰らって死期が迫るなか、セキに「お…おれは死にたくない…た…助けて」と救いを求めるガルフ。しかし顔面に尿をかけられ、“何より好きだった犬に好かれていない”という残酷な真実を死の間際に突きつけられてしまった。
『北斗の拳』には、一癖も二癖もあるとんでもない極悪人が多く登場する。あらためて読み返してみると、ジャギやアミバのような有名どころではなくとも、悪事の限りを尽くしているキャラは多い。
しかし、そんな極悪人も長くは生きられない。世紀末には救世主のケンシロウがいるからだ。弱者を虐げる極悪人と、彼らを倒して弱者を救うケンシロウ。このコントラストが際立っているからこそ、『北斗の拳』は魅力的な作品に仕上がっているのだろう。