■最後の言葉は“息子達”への感謝『ONE PIECE』白ひげ

 尾田栄一郎氏による『ONE PIECE』(集英社)には、志半ばで命を落としてしまうキャラクターが数名いる。その中の1人が「白ひげ」こと、エドワード・ニューゲートだ。「グラグラの実」の能力者で、四皇として白ひげ海賊団を率いることで海軍から脅威とされている。

 白ひげは海軍に囚われたエースを救うために、マリンフォード頂上戦争を引き起こす。これによって海軍と全面対決することとなり、そこには白ひげの能力を狙う黒ひげティーチの姿もあった。そのため白ひげには圧倒的に不利な形での戦いとなり、人員や物量の差によって追い詰められることに。それでも白ひげは、エースのために踏ん張って戦い続けていた。

 しかし、海軍大将の赤犬や黒ひげ海賊団の猛襲によって、白ひげは頭部を半分失い、撃たれ、斬られることになる。いつ倒れてもおかしくないのに、強靱な精神力のみで必死に立ち続けていた。この姿には、全ての攻撃を前面で受け入れる覚悟が感じられ胸を打たれる。そして、死を悟った白ひげは「お前達には全てを貰った」「感謝している さらばだ息子達…………!!」と、財宝に興味はなく子どもの頃から欲してやまなかった「家族」を守るという自らの想いを胸に抱き、そのまま息を引き取った。

 白ひげがこの戦闘によって受けた刀傷は267太刀、銃弾は152発、砲弾は46発。まさに武蔵坊弁慶もかくやという堂々の「立ち往生」は、男の死に様を示してくれた見事な最期だったと言えるだろう。

 

 バトル漫画において、キャラクターがどう生きてどう死ぬかということは重要なテーマのひとつだ。特に、読者にそれを強く印象付けるのは壮絶な「立ち往生」によって最期を迎えたキャラクターだ。その姿が示す信念や心の強さは、物理的な力の強さとは全く違った次元のものだからこそ、何年経っても読者の記憶に残るものになると言っていいだろう。そこには多くの場合、自らの生死を超えて後世や次世代につなげるための想いといったものが宿っているからだ。好きだったキャラクターが死んでしまうことは悲しいけれど、その想いを読者も受け継いでいくものなのだ。

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