■無敵の拳法家に付け入る隙…突破の鍵は“呼吸”にあり!『鉄拳チンミ』呼吸を盗む

 ここまでは、“呼吸”の力を自身の強化や技として使うキャラクターを紹介してきたが、一方で相手の“呼吸”を利用し、戦況を有利に運ぶといったシーンも描かれた。

 1983年より『月刊少年マガジン』(講談社)にて連載された、前川たけし氏の『鉄拳チンミ』の主人公・チンミこそ、拳法家とのバトルのなかで相手の“呼吸”を活用したキャラクターである。

 チンミは大林寺拳法を極める“拳精”を目指して数々の強敵たちと対峙していくのだが、“旋風拳”の達人・シオンとの戦いにて、肉体の回転を利用した変幻自在な攻撃の数々に返り討ちにあってしまう。

 予測不可能な攻撃を放つ“旋風拳”に終始圧倒されるチンミだったが、シオンの父・リクウの助言により、突破のカギが“呼吸を盗む”ことにあると気付く。そして、シオンの肉体の動きばかりを注視するのではなく、彼の放つ“呼吸”の特徴を観察することで活路を見出そうとした。

 結果、シオンが打撃を放つ瞬間、そして引く瞬間に生まれる“呼吸”の癖を見つけ出し、難攻不落だった旋風拳の攻撃をかわし、反撃に出ることに成功した。

 もちろん、これだけで突破できるほどシオンの“旋風拳”は甘くはなかったのだが、チンミが戦いにおける“呼吸”の重要性に気付いた場面でもあり、拳法家としての腕を着実に上げた瞬間と言えるだろう。

 拳法といえば凄まじい技の数々や、それを使いこなす身体能力ばかりを連想しがちだが、こういった勝負における“読み合い”も、勝利をつかみ取るためには必要不可欠な要素なのだろう。

 “呼吸”という人間の生体反応を読み取るそのしたたかな観察眼に、力押しだけではない“拳法”の奥深さを感じ取れるエピソードだ。

 

 我々が生まれながらにして身につけている“呼吸”だが、漫画に登場するキャラクターたちはそれを極め、進化させることでさまざまな現象を引き起こしている。フィクションだとは分かっていながらも、どの“呼吸”もついつい現実世界でマネをしてしまいたくなるような、魅力的な能力ばかりだ。

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