漫画を読んでいると、登場人物の顔が描かれていない「暗闇」でのシーンがたびたび描かれる。そこに書かれた文字だけで登場人物の感情が伝わり、キャラの表情が想像できてしまうのは、まさに作者の手腕のなせる技だろう。
今回は、描かれ方が秀逸だった漫画の「暗闇シーン」に注目したい。
まずは『週刊少年ジャンプ』(集英社)にて連載中の冨樫義博氏の『HUNTER×HUNTER』から、同作屈指の感涙シーン。18巻から30巻という、現在までで一番長期にわたって連載されたシリーズ「キメラ=アント編」では、捕食した生物の性質を得て進化していくキメラ=アントと、ハンターたちのバトルが描かれた。
その熾烈なバトルのラストでは、キメラ=アントの王であるメルエムと軍儀打ちの少女のコムギが心を通わせるシーンがある。
ネテロ会長の体内に仕込んであった爆弾「貧者の薔薇」の毒に侵されていくメルエムと、彼とともにいたために感染してしまったコムギ。もう長くないと悟った2人は、最後に残された時間で軍儀を打ちながら、少しずつ衰弱していく。
最後は目の見えなくなったメルエムが何度もコムギに話しかける様子が、真っ黒のコマの中に吹き出しだけで描かれる。そして「おやすみなさい…メルエム…」というコムギのセリフを最後に、2人の寄り添う姿が見開きで描かれたのが印象的だった。
真っ黒に塗られた9ページは、もともと目の見えなかったコムギとともに、メルエムの瞳が閉じられていくような演出だった。人ではないキメラ=アントとの長きにわたる戦いが、メルエムとコムギの心がつながるという形で終結したのは、読者のほとんどが予想できなかった展開だろう。セリフしか描かれておらず、だからこそか、涙無くしては読めないページとなった。
また、大場つぐみ氏原作、小畑健氏作画による漫画『DEATH NOTE』の印象的なシーンも暗闇で彩られた。
それはコミックス12巻で、死神のリュークによって主人公の夜神月(やがみライト)が心臓麻痺で命を落とした次のページ。真っ黒に塗り潰された見開きページは、『週刊少年ジャンプ』掲載時には「人間は、いつか必ず死ぬ。死んだ後にいくところは、無である」という編集部によるアオリ文が添えられていた。月が命を落としたことが絵ではなく暗闇という形で表現され、そこに広がる無限の「無」というものに、絶望感と恐ろしさを感じたものである。
重要シーンを大胆に表現した例だと言えるだろう。