■『ベルセルク』や『血界戦線』の世界観にも用いられている“ユグドラシル”
天地を創造した後、オーディンら3人の神は木を人間の形にして生命を与えた。人間が住む領域“ミッドガルド”は巨人の侵入を防ぐため、ユミルのまつ毛から創られた巨大な壁で囲われていた。このあたりはそのまま『進撃の巨人』の世界観と重なる。
やがて世界の中心には大樹がそびえた。神々の世界、人間の世界、巨人の世界すべてを内包するこの大樹は“ユグドラシル”と呼ばれる。これも漫画では馴染みのあるモチーフだ。
たとえば三浦建太郎氏の『ベルセルク』では、ガニシュカ大帝の消滅と同時に、天界、地上界、冥界をつなぐ世界樹が出現する。モノローグの“天を貫き地の果てまで至る北の神話の樹のごとく”というのはユグドラシルのことで、本作に登場する“ミッドランド”という地名もおそらくミッドガルドと同じ概念から生まれたものだろう。もっとも、“人類(ひと)の深きに根を下ろす元型(オリジン)”ともあるとおり、北欧神話だけをモチーフにしたわけではないのだろうが。
また内藤泰弘氏の『血界戦線』では、異界と現世が交わる都市“ヘルサレムズ・ロット”の中心に“永遠の虚”と呼ばれる巨大な穴があり、その真上に大樹が浮かんでいる。ここに作られた駅の名が“ユグドラシアド中央駅”だから、やはりユグドラシルから着想を得たのではと考察できる。
■『終末のワルキューレ』の“ラグナロク”に出場した雷神“トール”
オーディンに突然自分たちの祖を殺された巨人たち。彼らは神々への敵対心を募らせ、神VS巨人で壮絶な戦いが繰り広げられた。戦いは激しく、やがて世界は終末を迎える。神々も巨人も魔物も人間もあらゆる生命が死に絶え、世界は炎に包まれ海に沈む。これが“ラグナロク”だ。
ラグナロクといえば、梅村真也氏原作、フクイタクミ氏構成、アジチカ氏作画『終末のワルキューレ』の「神VS人類最終闘争(ラグナロク)」を思い浮かべる人も多いだろう。このとき神側の先鋒として登場した“トール”は、オーディンの息子である。彼は作中でも紹介されたとおり、北欧神話最強の雷神であり、鎚を武器に一人で巨人の軍勢を蹴散らした。
ちなみに木曜日「Thursday(英)」「Donnerstag(独)」の語源も“トール”で、それぞれ“雷”にちなんだ意味を持つそうだ。そう考えると、武内直子氏『美少女戦士セーラームーン』に登場する木星の戦士セーラージュピターが雷属性というのもうなずける。
『進撃の巨人』に登場するユミルに始まり、その子孫オーディンに『ヴィンランド・サガ』の戦士たちが祈りを捧げ、オーディンが創った世界が『ベルセルク』や『血界戦線』の世界につながり、オーディンの息子トールは『終末のワルキューレ』で活躍……こうして見るとなんと豪華な系譜だろうか。神話も漫画も、想像の世界でつながっているのがまた面白い。