神話や宗教は、漫画のモチーフやプロットに使われることが多い。なかでも北欧神話は日本人にはあまり馴染みがないものの、数々の作品に影響を与えていることは漫画ファンの間でよく知られている話だ。今回はそんな北欧神話の流れを主軸に、名作の世界観を振り返っていこうと思う。
■はじまりは『進撃の巨人』にも登場した“ユミル”
北欧神話における太古の時代、大きな裂け目を境に火の世界と氷の世界が広がっていた。そこで火の熱と氷の冷気がぶつかって生じた水滴に生命が宿り、原初の巨人“ユミル”が誕生する。足をこすり合わせると男の巨人が、脇の下からは男女一体ずつの巨人が……といった具合に、ユミルの体からはたくさんの巨人が生まれた。
諫山創氏の『進撃の巨人』に登場する“始祖ユミル”のモチーフがここから来ているというのは、ファンの間では有名だろう。神話のなかでユミルが生んだ巨人たちは人間を喰いこそしないが、粗暴かつ野蛮で神々と対立する存在である。
ちなみに2019年(日本では2020年)に公開されたアリ・アスター監督の映画『ミッドサマー』では、ユミルを讃える儀式の様子が描かれている。『進撃の巨人』のファンにとっては一見の価値ありだと思うが、サイコホラーやカルト系が苦手な人には少々キツイ内容かと思われるので、視聴の際にはご注意を。
■『ヴィンランド・サガ』でノルドの戦士たちが祈りを捧げる“オーディン”
ユミルが生まれたときに一頭の牛も誕生し、この牛が舐めていた“塩がついた氷の塊”から一人の男が現れる。これが最初の神の誕生だ。彼は巨人との間に息子を生み、その息子もまた巨人との間に3人の息子を生んだ。そのうちの一人が“オーディン”。幸村誠氏の『ヴィンランド・サガ』では、ヴァイキングたちがオーディンに祈りを捧げる姿がよく描かれているが、この神はユミルが生んだ巨人の子孫ということになる。
オーディンは生まれながらに強大な力を持つ好戦的な神だった。彼はある日2人の兄弟とともにユミルを殺し、その血で海や川を、肉で大地を、骨で山脈を、歯で岩を、頭蓋で空を創る。
つまり北欧神話の天地創造になぞらえると、我々が生きているこの世界はユミルの死体からできたわけだ。なんとも血なまぐさいが、『ヴィンランド・サガ』を通してヴァイキングの所業や性質を知った読者には納得しやすい話かもしれない。